今やバリ島内にとどまらず、世界中から注目されるカルチャータウンとなっているチャングー地区の中心的存在として知られる「デウス・テンプル (Deus Ex Machina Temple)」。
デウスはもともとオーストラリアのバイクショップ。
80年代一世風靡したアパレルブランド「Mambo」のオーナーが、バイクでサーフィンに行くという自身のライフスタイルを反映して、2006年シドニーでバイクパーツを販売したのが始まりです。
その後2011年、ここバリ島チャングーで「デウス・テンプル」がオープンしました。
この店舗は世界各地に展開されるデウスの中でも最大規模で、デウスのブランド全体の旗艦店でもあります。
当時のチャングーといえば、見渡す限りの田園風景と、極上の波があるばかり。
住むローカルも少なく、細い田舎道は牛かアヒルかマニアックなサーファーくらいでした。
そこに突如登場した「デウス・テンプル」。
大きな三角屋根のインドネシア木造建築は遠くからもよく見えて、チャングーのシンボルとなりました。
店舗には「Mambo」から続くアパレル製品のほか、カスタムバイク、ハンドシェイプのサーフボードが並び、ギャラリーコーナーとカフェを併設。
中庭の奥にはバイク工房とサーフボード工房が備えられました。
その後、撮影スタジオや床屋が加わり、中庭では毎晩日替わりで映画上映会や音楽ライブ、タトゥー・ナイト、レディース・カクテル・デーといった無料イベントを開催。
一方で、サーフボードをハンドシェイプで削る名シェイパーをゲストとして入れ代わり立ち代わり世界中から招待。
サーフボード工房で、デモンストレーションを兼ねてシェイプを行い、できあがったボードが店頭に並べられました。
ビーチでは遊び心たっぷりのサーフィン・コンテスト。
山では、カスタムバイクを用いたオフロード・バイクイベントなど、年間を通じて様々なイベントを開催。
いずれも大人の洒落っ気たっぷりといった面白い趣向で、世界中から著名なスタイル・サーファーが集まり、サーフィン業界を中心にメディアで注目されるようになりました。
ブランド名となっている「デウス エクス マッキナ (Deus Ex Machina)」は、古代ギリシャの演劇における演出方法。
『劇の内容が錯綜して解決困難な局面に陥った時、絶対的な力を持つ存在(神)が現れ、解決に導く』というものです。
神役の演者がクレーン状の機械(=Ex Machina)で舞台に登場するという最盛期のアテネらしい驚きの演出が行われたことから「機械仕掛け(Deus Ex Machina)」と呼ばれるようになったといいます。
これを反映して、「デウス・テンプル」の中庭にはステージにもなるウッドデッキが配され、壁には女神のイラストが大きく描かれています。
バリ島のこの旗艦店に「テンプル」と名付けたのは当初ディレクターであったダスティン・ハンフリー(Dustin Humphrey)。
サーフィン界で最も有名なクリエイターのひとりで、店舗オープンからイベント企画運営など存分に手腕を発揮。
一方で、バリ島はじめインドネシア各地を舞台にバイクとサーフトリップの世界観を映画作品『South to Sian (2016)』として製作し、「デウス・テンプル」から発信。
世界に向けてバリ島チャングーの名を知らしめました。
現在のチャングーらしいスタイルや雰囲気は、この「デウス・テンプル」がけん引して出来上がったと言っても過言ではありません。
先日発表された旅行サイト「トリップアドバイザー」の「世界で最も訪れたい旅先」でバリ島が初めて2位に選ばれました。
「デウス・テンプル」がベースを築いたチャングーの、成熟した大人のカルチャーや世界観は今や世界中の人々を魅了しています。
当時の田舎らしいのどかな景色は急速に失われつつありますし、「デウス・テンプル」のディレクターも代替わりしてダスティン時代とは変わっていますが、現在も、チャングーのカルチャー発信地として多くの人を楽しませてくれています。
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