パリの17区、大通りの喧騒から少し離れた道に入り、落ち着いた雰囲気の界隈に立っているのが国立ジャン=ジャック エネール(Henner)美術館。
ここは元はギヨーム デュビュフという画家が自宅兼アトリエにしていた建物で、後にエネールの親族が購入、国の援助も得て1924年に美術館としてオープンしました。

エネールは世界的にはそれほど有名ではありませんが19世紀後半、時代の流行より自分のスタイルを重視しつつたたくさんの肖像画を描きました。
とりわけ赤髪の女性の絵画で知られていたようで、卓越した功績を残した人に贈られるレジオン  ドヌール賞も受賞しているアーティストです。




館内の渋いオレンジの壁の色や調度品も楽しみつつ作品を観ていくと、どこかで見たことがある肖像画に目が留まります。
タイトルを見るとやはり世界的に有名な細菌学者のルイ・パスツールです。
展示の解説によると、エネールとパスツールは彫刻家ポール デュボワを介して知り合ったようです。
当時パスツールは自分の娘の肖像画を描く画家を探しており、エネールに白羽の矢が立ったということです。

実際美術館内にもパスツールの娘マリー=ルイーズのみならず、彼の義理の娘ジャンヌの肖像画も見つかります。
娘の肖像画の出来に満足したパスツールが義理の娘のものも依頼をした背景には、エネールの実力やパスツールの好みは勿論ですが、同じアルザス地方出身であるということも2人の距離を近づけ、親交を深めるきっかけになっていたにちがいありません。




フランスでは「コミューン」という、市町村を区別せずに表す単語があり、地方では人口100人や数百人という小規模のコミューンが多数存在します。
そして、現在もフランスでは複数学年が一緒に学ぶことは珍しくないようですが、村の小学校では特に少ない生徒数だった為に学年が違っても何年も一緒に学んで過ごします。
こうして自然と強い関係性が築かれていくことで、故郷への思いも強いものになるという背景が想像できます。
パリで奮闘する同じ地方出身者が出会い、共通の話題で盛り上がったり、懐かしがる光景が目に浮かぶような気持ちの良い空気が漂う美術館です。


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