
日本のデパートの物産展や食品売り場を歩いていると、「ひと口どうぞ」と試食を勧められることがある。
チーズをひとかけ、パンをひと口。気になっていた商品を実際に味わってから購入できるのも、食品売り場を歩く楽しみのひとつだ。
では、食文化の豊かなイタリアにも、日本のような「試食」はあるのだろうか。
結論から言えば、イタリアにも食べ物を少し味わう文化はある。
ただし、スーパー、市場、専門店、食品イベントなど、場所によってその形はかなり違うようだ。
■ BLアニメのイタリアフェアでも「試食」
横浜を舞台にしたオリジナルBLアニメ『秘密の輪舞曲(ロンド)』第5話「小さな旅のように」では、大学生の朝倉悠真と、イタリア出身の実業家アレッサンドロ・ロッシが百貨店のイタリアフェアを訪れる。
会場でロッシはパンにオリーブオイルを垂らして悠真に渡し、二人でさまざまな味を楽しんでいく。
悠真から「試食を選ぶ時、まったく迷わないですよね」と言われる場面もある。
作品の中では日本の百貨店で開かれた催事だが、ではロッシの故郷・イタリアでは、どんな場面で「試してから食べる」ことができるのだろうか。
▶ 関連:秘密を抱えた大学生と年上の実業家を描くBLアニメ『秘密の輪舞曲』
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■ 「assaggio」は日本語の「試食」と少し違う
まず覚えておきたいイタリア語が「assaggio(アッサッジョ)」。
イタリアの国語辞典Treccaniでは、assaggioについて、「味を見る行為」のほか、味を見るための少量の食べ物や飲み物という意味が説明されている。
つまり、日本語の「味見」や「試食」にかなり近い言葉だ。
ただし注意したいのは、assaggioと書いてあるからといって、必ず無料とは限らないこと。
イタリアでは「少量を味わう」という意味そのものが強く、日本の店頭で想像する「無料で一口もらえる試食」とは、必ずしも同じではない。
実際、無料であることを明示する場合には「assaggi gratuiti(無料の試食)」という表現も使われる。
旅行中に「assaggio」という文字を見つけても、「無料でもらえる」と思い込まない方がよさそうだ。
■ イタリアのスーパーにも試食はある
では、スーパーで商品を試食することはあるのか。
ある。
たとえばイタリアの生活協同組合Coop Alleanza 3.0は、2026年9月12日から26日にかけて、エミリア地方のハイパーマーケットで「Gli Angoli del gusto」というイベントを開催した。
約20の生産者が参加し、生鮮食品、総菜、ワイン、パンなどを消費者が味わえる「degustazioni(テイスティング)」が行われている。
つまり、「イタリアのスーパーには試食がない」というわけではない。
ただ、公式サイトを見ていると、こうした試食は生産者を招いたフェアや期間限定企画として紹介されるケースも目立つ。
日本のデパ地下を歩いていて偶然「ひと口どうぞ」と声を掛けられる感覚とは、少し違った出会い方も多そうだ。
■ 市場なら「その土地の味」を試す楽しみも
イタリアらしさを感じやすいのは、市場かもしれない。
イタリア政府観光局の公式サイト「Italia.it」は、モデナの「Mercato Storico Albinelli(アルビネッリ市場)」について、地域の代表的な食品を味わったり、テイスティングに参加したりできる場所として紹介している。
市場には果物や野菜だけでなく、ハム、チーズ、肉などを扱う店が並ぶ。
ここでの「味わう」は、日本のスーパーの販促試食というより、その土地の食文化そのものを体験することに近い。
市場を歩きながら知らないチーズを見つけたり、店の人におすすめを聞いたりする。
「買い物」と「食体験」の境界が曖昧なのも、市場を歩く面白さだ。
■ パン+オリーブオイルはイタリアでも
『秘密の輪舞曲』第5話で印象的なのが、ロッシがパンにオリーブオイルを垂らし、悠真に渡す場面。
これに近い体験は、実際のイタリア旅行でもできる。
Italia.itでは、秋のオリーブ収穫時期に、各地の搾油所(フラントイオ)がオリーブオイルのテイスティングを開催すると紹介している。
南イタリア・プーリア州の例では、地元のパンにオリーブオイル、塩、コショウを合わせて味わう方法も紹介されている。
オリーブオイルは単なる調味料ではなく、それ自体の香りや味の違いを楽しむ食品。
産地へ行けば、ワインを飲み比べるようにオイルを味わう体験もできる。
■ 「試食」より「味を知る時間」?
日本とイタリアのどちらにも、買う前や食事の途中で、少量を味わう機会はある。
しかし、「試食」という一つの日本語にまとめてしまうと、その違いを見落としてしまいそうだ。
スーパーの販促イベントで味わう。
市場でその土地の食品を試す。
オリーブ農園や搾油所へ行き、生産者の説明を聞きながらオイルを味わう。
イタリアの「assaggio」や「degustazione」には、商品を売るためだけではなく、「まず味を知ってみる」という楽しみ方も含まれている。
『秘密の輪舞曲』の悠真にとって、百貨店のイタリアフェアは「小さな旅」のような時間だった。
本物のイタリアを旅する機会があれば、市場や食品店で見かける「assaggio」「degustazione」という言葉にも注目してみたい。
ひと口の味から、その土地の食文化が見えてくるかもしれない。
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