今回、物議を醸したのは韓国軍の精神教育用に配布された教材「精神戦力教育基本教材」。このほど、各部隊に配布が始まっていた。聯合ニュースによると、教材は5年に一度改定されており、2019年に発刊された教材は民間の専門家らが執筆したが、今回改定された教材は現役の軍人や軍属らが執筆したという。
教材には「韓半島(朝鮮半島)周辺では中国、ロシア、日本などの複数の強国が激しく対立している」と前置きした上で、「これらの国は自国の利益のために軍事力を海外に投射したり、釣魚島(日本名・尖閣諸島)、クリール諸島(千島列島)、独島問題など領土紛争も進行中であり、いつでも軍事的衝突が発生する恐れがある」と記された。竹島の領有権を主張する韓国政府は「領土問題は存在しない」との立場であるため、教材中の記述は政府の方針に反するのではないかとの指摘が韓国メディアから上がり、物議を醸した。また、この教材には、竹島が描かれていない朝鮮半島地図も掲載されていた。
当初、国防部側は「文章の主語は『これらの国』であり、(朝鮮半島の)周辺の国々が領土に関して様々な主張をしているということを記したもので、わが国が独島を領土紛争(地域)と認識しているという記述ではない」と釈明した。しかし、報告を受けた尹大統領は「決してあってはならないこと」とし、教材を修正するなどの措置を直ちに取るよう指示。国防部は先月28日、「状況の深刻さを認識し、早期に教材を補完する」として全て回収する方針を発表した。韓国メディアのイーデイリーによると、教材は計4万部発刊予定で、既に約2万部が一部の部隊に配布されていた。2万部の発刊に投入された予算は約4000万ウォン(約440万円)という。
竹島をめぐっては、韓国の国会議員が島に上陸するなど、昨年も島の領有権を主張するパフォーマンス的行動が繰り広げられてきた。昨年5月には、最大野党「共に民主党」所属の議員が学生団体のメンバーら十数人と竹島に上陸した。議員らは韓国国旗を振り、「独島はわれわれの領土だ」などと叫んだ。この議員は上陸後、自身のSNSに「独島がわが領土であることを直接立証した」などと投稿した。出演したラジオ番組でも改めて真意を説明し、「日本は安保文書にも既に竹島が日本の領土だと記述しており、今は外交演説でも主張している。われわれも世界の人々に対して独島が韓国の領土だということを知らせなければならないと考え、青年委員(学生団体)らと上陸することを決めた」と語った。
しかし、議員の取った行動には韓国内でも批判が上がった。前述のように、韓国政府は島の領有権争いの存在そのものを認めておらず、島は明らかに韓国の領土であるという立場から、そもそも外交交渉や司法での解決の対象になるものではないとしてきている。議員が批判されたのは今回の教材をめぐる問題と同様、政府の立場と整合性がとれないためで、現職の国会議員が島に上陸して領有権を主張すれば、竹島が論争の対象であると認めることになるからだった。
今回の教材をめぐる問題を受け、国防部のシン・ウォンシク長官は記者団に、「すべての責任は私にある」とし、「責任を取らなければならない部分があれば責任を取り、謝罪もする」と述べた。一方、韓国メディアによると、市民団体「庶民民生対策委員会」は先月29日、シン長官らを職務放棄の疑いでソウル警察庁に告発したことを明らかにした。シン長官が記者団に「長官として事前にしっかり確認すべきだったが、確認できなかったのは私の不手際」と述べたことに、同団体は「政府は何度も『独島に関連した領土紛争は存在しない』という公式の立場を示してきたが、(シン長官らが)これに正面から反するあきれた内容が教材に記載されたという事実さえ知らなかったことは職務放棄だ」と指摘した。
国防部は回収した教材を全て廃棄し、指摘された部分の記述を修正して再発刊する方針だ
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