<W解説>今度は与党の女性議員が殴られ負傷=総選挙前に国会議員が立て続けに襲撃される異常事態
<W解説>今度は与党の女性議員が殴られ負傷=総選挙前に国会議員が立て続けに襲撃される異常事態
韓国の与党「国民の力」のペ・ヒョンジン議員(40)が今月25日、ソウル市内の路上で男に襲われ、病院に搬送された。流血したが、命に別条はないという。ペ氏を襲ったのは少年と見られ、現場で拘束された。韓国では今月2日、最大野党「共に民主党」のイ・ジェミョン(李在明)代表が視察先の南部・プサン(釜山)で男に刃物で切り付けられる襲撃事件が起きたばかり。4月の総選挙が近づく中、政治家を狙った襲撃事件が相次いでおり、警護の在り方が問われることになりそうだ。

聯合ニュースによると、事件は25日午後5時20分ごろ発生した。ペ氏はこの日、国会本会議に出席した後、最大野党「共に民主党」を糾弾する集会に参加。その後、ソウル市カンナム(江南)区に移動し、区内の建物に入った際、男に「国会議員のペ・ヒョンジンか」と身元を確認された直後、後頭部を10回ほど殴られた。ペ氏は病院に搬送された。切り傷を負い、現在、入院しているという。

男はペ氏の関係者によって取り押さえられ、駆け付けた警察官が現行犯逮捕した。男は自身について「15歳」と話している。警察当局が動機などの調べを進めている。

ペ氏はソウル市出身の40歳。テレビ局MBCのアナウンサー出身で、同局在籍中は看板ニュース番組「MBCニュースデスク」のキャスターを務め、人気を博した。2012年に経営陣の退陣を求める労組のストライキの途中で労組を脱退し、キャスターに復帰したことで労組と対立。2017年末に経営陣が更迭されると同時に番組を降板し、その後は記者となった。2018年3月に同局を退社し、当時存在した保守政党の自由韓国党に入党。同年6月の国会議員補欠選挙に出馬するも落選した。その後、2020年4月の総選挙に自由韓国党の後継政党の未来統合党の候補として出馬し、初当選を果たした。同党の後継政党の「国民の力」で、これまで最高委員などを務めた。また超党派でつくる韓日議員連盟にも所属しており、日本の国会議員との交流を進めている。

事件について、与野党議員からは憤りの声が上がっている。「国民の力」のトップであるハン・ドンフン非常対策委員長は25日夜、ペ氏が入院している病院に見舞いに訪れた。記者団に対し「絶対に起こってはならないことが起きた。真相を明らかにし、犯人を厳罰に処さなければならない」と述べた。最大野党「共に民主党」の李在明代表は、自身のSNSで「いかなる政治テロも容認してはならない。徹底的かつ断固とした対応が求められる」とコメントした。

その李氏は今月2日、訪問先の南部・プサン(釜山)で、新空港の建設地の視察を終え、記者団の取材を受けていた際、サインを求めて近づいてきた男に刃物で左首付近を刺された。釜山大学病院に搬送され応急措置を受けた後、転送先のソウル大学病院で手術を受けた。殺人未遂容疑で逮捕された60代の男は警察の調べに「李氏が大統領になることを防ぎたかった」と供述。警察は「犯行動機は個人的な政治的信念によるもの」と説明した。男は「(4月の)総選挙で李氏が特定候補に公認を与え、多くの議席を獲得できないようにするため殺害を決めた」とも供述しているという。李氏は10日に退院した。

韓国では、過去にも党代表ら要人が襲撃される事件が起きている。2006年には当時、野党第一党のハンナラ党代表だったパク・クネ(朴槿恵)元大統領が、ソウル市内で地方選挙の応援演説を行っていた際、男に襲われた。朴氏はカッターナイフで切り付けられ、右頬を約60針縫う重傷を負った。朴氏は2022年3月にも南東部・テグ(大邱)の私邸前で支持者にあいさつをしていた際、群衆から焼酎瓶を投げつけられた。この際は十数人の警護員による機敏な対応によって守られ、朴氏にけがはなかった。韓国には政府機関の大統領警護庁があり、大統領とその家族を警護するが、退任後も最長で15年間、在職時とほぼ同等の手厚い警護が受けられる。

また、2022年3月には、当時、「共に民主党」の代表を務めていたソン・ヨンギル氏が大統領選挙前の支援遊説中、男に鈍器で頭を叩かれる事件が起きている。

韓国では今年4月に総選挙が行われる。今後、議員らは各地を遊説するなど政治活動を活発化させていくとみられるが、それを前に与野党の議員が相次いで襲撃される異常事態となっている。「国民の力」のアン・チョルス議員は「警察は徹底した捜査と併せて再発防止策を樹立しなければならない」と求めた。一方、与野党の非難合戦ばかりの現在の政界について「戦争のような政治をやめ、本来の政治を取り戻すことが急務だ」と苦言も呈した。

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