韓国政府は先月6日、医師不足を解消するため、大学医学部の入学定員を2025年度の入試から2000人増やすと発表した。定員増となれば、1998年以来、27年ぶりとなる。
韓国の医師不足が指摘されたのは2020年のことで、韓国国会立法調査処(所)が同年に発刊した「OECD主要国の保健医療人材統計及び示唆点」によると、韓国の人口1000人当たりの医師の数は2.3人でOECD加盟国の平均(3.5人)を下回り、加盟国の中でも最低水準だった。
事態を重く見たムン・ジェイン(文在寅)前政権は同年7月、医師4000人を10年間追加養成する医学部定員拡大策を打ち出した。しかし、研修医たちはこれに反発。医師の全体数が足りていないのではなく、原因は外科や産婦人科など、いわゆる必須診療科の医師のなり手が少ないことが結果的に医師不足を招いていると主張した。当時、大韓医師協会は新型コロナ禍でストライキを強行。文政権はコロナ対応を優先するため、定員増はひとまず断念した。
政権が代わっても韓国政府は医学部の定員拡大にこだわり続けた。ユン・ソギョル(尹錫悦)大統領は先月6日に自らが主宰した国務会議で、「国民の健康と命を守るため、医師の拡大はもはや遅らせることのできない時代的課題」と強調し、医学部定員増の必要性を訴えた。
政府が今月6日に医学部の定員増の方針を打ち出すと、研修医らは猛反発。医学部の定員を増やしたとしても人気のある科、収入が高い科の医師を増やすに過ぎず、必要なのは、前述のような必須医療分野の科の医師を増やすことだと主張した。
大規模病院の研修医らは集団で退職届を提出。その数は増え続け、現在までに約1万2000人が現場を離れた。これにより、各地の病院で手術の延期や病棟の閉鎖などの影響が出ている。政府は業務開始(復帰)命令を発出し、直ちに現場に戻るよう求めている。命令に反したことが確認された場合、医師免許の停止処分を下す方針だ。
尹大統領は6日の閣議で「医師たちの行動は自らの責務を無にし、法治主義の根幹を揺るがすものだ」と研修医たちを非難した。
一方、韓国メディアのヘラルド経済によると、政府が研修医たちに職場復帰を指示することが、国際労働機構(ILO)が禁止した強制労働に該当するとの主張が出ているという。ILO29号協約は、可能なすべての形態の強制労働を禁止している。しかし、一部の生存・安全を危うくする極めて重大な状況は例外としている。政府は研修医たちの行動はこの例外に該当するとし、ILOが禁止する強制労働には当たらないと反論している。
若手医師たちが利用するインターネットコミュニティには、現場に復帰した研修医の実名などを公開する嫌がらせも起きている。ハン・ドクス首相は8日、「患者のそばを離れた専攻医(研修医)が現場に戻ることを考えるどころか、同僚が復帰できないよう非難し、勇気を出して先に医療現場に戻った同僚を攻撃しているのは、人格的な暴力であり、国民に失望と怒りを感じさせる行為」と強く非難。警察当局などに対応を指示した。
朝鮮日報は9日に掲載したコラムで「『学校で国語、英語、数学は良くできるが、仁術(仁徳を施す方法)』と市民意識は二流・三流の医師たちばかり育てた」という反省の声も医学部教授たちの間からは出始めている」と紹介した。
現場を離脱した研修医たちは、本来受けられるべき医療を受けられない患者がいること、一緒に働いてきた看護師が本来の業務を拡大して職務に当たっていることに思いが至らないのか。
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