<W解説>韓国・尹大統領が再設置を決めた「民情首席室」、狙いは国民の声に耳を傾けること?それとも?
<W解説>韓国・尹大統領が再設置を決めた「民情首席室」、狙いは国民の声に耳を傾けること?それとも?
韓国のユン・ソギョル(尹錫悦)大統領が今月7日、大統領府に民情首席室を再設置すると発表した。同室トップの民情首席秘書官には、検察出身のキム・ジュヒョン(金周賢)氏を任命した。同室が果たす役割の一つに「民意の聴取」がある。尹政権を支える与党「国民の力」が先月の総選挙で大敗。尹大統領は国民の声に耳を傾けることが必要とし、過去に自ら廃止した同室の復活を決めたが、韓国メディアは同室の再設置の背景に、別の狙いを指摘している。

尹氏は2022年3月に行われた大統領選に当選し、同年5月、第20代韓国大統領に就任した。今月9日で就任から丸2年を迎えた。尹氏は大統領選で公約の一つに大統領府で絶大な権力を握ってきた民情首席室の廃止を掲げていた。同室は世論や国民感情の把握に加え、検察と警察の動きをチェックし、大統領の親戚や高位公職者らの不正を常時監視するなどの役割を担っていた。しかし、尹氏は大統領就任前、同室について「過去、警察や検察を掌握した民情首席室は合法を装って、政敵や政治的反対勢力を統制する場合が一度や二度ではなく、世論の検証を装い国民の身元調査などを行ってきた」と指摘していた。その後、尹氏は公約通り、同室を廃止した。

先月10日に行われた総選挙は、尹政権の「中間評価」と位置付けられたが、尹政権を支える与党「国民の力」が108議席、最大野党「共に民主党」が175議席を獲得する結果となり、「国民の力」は大敗した。野党勢力は、憲法改正案や大統領の弾劾を求める議案を可決できる200議席には届かなかったが、引き続き、政局の主導権を握る。

尹氏の政権運営はこれまで「独善的」との批判があった。総選挙での大敗を受けて尹氏は「今回の総選挙で明らかになった民意を皆が謙虚に受け止めなければならない。より低姿勢かつ柔軟な態度で、より密にコミュニケーションを取り、私から民意に耳を傾ける」と宣言した。

政権の立て直しを進める中、尹氏は今月7日、大統領府に民情首席室を復活させると発表した。トップの民情首席秘書官には、自身と同じく検察出身の金周賢氏を任命。金氏はパク・クネ(朴槿恵)政権で法務部長官(法相)と大検察庁次長を務めた人物だ。

尹氏はかつて自らが廃止した同室を再設置することを決めた理由について、民意の聴取機能が手薄になったことから、復活させる方が良いと考えたと説明した。

しかし、韓国メディアは別の狙いを指摘。公共放送KBSは「大統領夫人に対する捜査への影響力の強化という見方も出ている」と伝えた。

夫人のキム・ゴンヒ(金建希)氏をめぐっては、尹大統領就任後の2022年9月に、在米韓国人の牧師から高級ブランドバッグを受け取ったとされる疑惑がある。韓国では公務員やその配偶者が職務と関連して一定額以上の金品を受け取ることを禁じる「不正請託防止法」があり、同法違反の疑いが指摘されている。昨年11月、尹政権に批判的なユーチューブチャンネルで、その一部始終を収めたとする動画が公開された。ソウル中央地検には捜査チームが立ち上がっており、イ・ウォンソク検事総長は今月7日、「証拠と法理に基づいて迅速かつ厳正に捜査し、処分する」と述べ、捜査を通じて真相究明を図る考えを改めて強調した。

このように、検察が捜査に拍車をかけていることから、民情首席室を再設置する真の狙いは警察や検察への掌握力を高め、司法リスクを防ぐことにあるとの見方が出ている。こうした指摘に、尹氏は同室について「国民のために設置するもの」と強調した。大統領府は復活させる民情首席室には検察や警察などに対するチェック機能は持たせないと説明しており、尹氏も、司法リスクがあれば自身が説明して解決しなければならない問題であり、民情首席室の仕事ではないと述べた。一方、韓国紙のハンギョレによると、市民団体「参与連帯」は、民意聴取の機能を持つ市民社会首席室が現在、空席になっていると指摘した上で、「(国会や市民社会などと意思疎通を図る)市民社会主席の機能強化などを通じて民意聴取が十分可能であるにも関わらず、民情首席室を復活させた」と批判した。

Copyright(C) wowneta.jp