韓国政府は北朝鮮人権法が制定された翌年の2017年から同報告書を毎年発刊しているが、脱北者の個人情報保護や北朝鮮の反発を考慮して非公開としてきた。しかし、北朝鮮に人権問題でも圧力をかけるユン・ソギョル(尹錫悦)政権が昨年に初めて公開。ことしは脱北者600人余りの証言を基に作成され、統一部が先月27日に公開した。
北朝鮮の深刻な人権状況はこれまで国際社会が度々非難してきた。世界人権宣言の採択から75年となった昨年12月には、北朝鮮の人権状況をめぐって日米韓、それに国連安全保障理事会の非常任理事国であるアルバニアの4か国が共同声明を発表。「北朝鮮の国民は、表現や思想の自由、移動の自由などの権利を行使することができず、北朝鮮政府は国民の基本的なニーズを無視し続けている」などと非難した。その上で「我々は北朝鮮に対し、国際法上の義務を守り、全ての人権侵害をなくすため直ちに措置を講じるよう求める」とした。
先月12日には、国連安全保障理事会が北朝鮮の人権問題について協議する公開会合を開催した。北朝鮮の人権に関する会合が安保理で開かれるのは昨年8月以来、10か月ぶりのことだった。公開会合は日本、米国、韓国、英国の要請を受け、韓国のファン・ジュングク国連大使の主宰で開かれた。一方、中国とロシアは開催に反対し、会合の開催是非を問う投票を求めた。最終的に12か国の賛成で開催が決まった。日米韓は北朝鮮が国民生活を犠牲にして核・ミサイル開発を進めていると批判。多くの理事国も北朝鮮による人権侵害を非難した。一方、中国の国連次席大使は「北朝鮮の人権問題に安保理が介入するのは、朝鮮半島の緊張を和らげる助けにはならない。逆に反感を強め、対立を激化させる」と主張した。米国の国連大使は「北朝鮮は国内外で強制労働や北朝鮮労働者の搾取に依存して大量破壊兵器を開発している。中国とロシアが北朝鮮を守ろうとしていることは恥ずべきことだ」と非難した。
北朝鮮は韓国文化の流入を阻止するため、2020年12月に「反動思想文化排撃法」を採択した。住民が外部の情報に接触することで体制維持を脅かしかねないと危惧して作った法律だ。同法では処罰対象に一つに「南朝鮮(韓国)文化コンテンツの視聴や流布」を明示しており、韓国の映画やドラマなどを広めた場合、最高で死刑、視聴するだけでも15年の懲役を科すとしている。
韓国統一部が先月27日に公開した報告書では、同法を根拠に北朝鮮の住民が公開処刑されたという脱北者の目撃証言も盛り込まれた。2022年、南西部のファンヘナムド(黄海南道)の鉱山で韓国の音楽を聴いたり映画を見ていたりしていた男性が公開処刑されたという。また、サングラスの着用や、結婚式で神父が白色のドレスを着ることは、同法に違反される行為とみなされるという。これについて、韓国紙の朝鮮日報は、「北朝鮮の住民が目にする労働新聞の昨年末の1面には、キム・ジョンウン(金正恩)総書記と娘のジュエ氏がサングラスを着用した写真が大きく掲載されていた」とし、住民を厳しく取り締まりながら金親子は同法に抵触する行為を取っていることを指摘した。
また、報告書は、政治犯の公開処刑の際には2000人から3000人が見物人などとして動員されていると指摘した。海外に派遣された北朝鮮の労働者についても記され、それによると、休日がほとんどない状態で毎日15時間以上の作業をさせられている上、北朝鮮政府への「上納金」を収めさせられているという。
韓国統一部による北朝鮮の人権報告書の公開は、ことしで2年目となった。看過できない北朝鮮の深刻な人権蹂躙(じゅうりん)の実態を国際社会に知らしめるために、来年以降も公開は続けていくべきだろう。
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