米大統領選を4か月後に控える中、選挙活動中の大統領経験者を狙った今回の事件は世界に衝撃を与えた。連邦捜査局（FBI）は、トランプ氏に対する暗殺未遂事件として捜査を進めているが、銃撃を阻止できなかった大統領警護隊（シークレットサービス）に批判が高まっている。容疑者はトランプ氏が演説していた場所から120～150メートル離れた建物の屋上からライフルで狙撃した。狙撃地点は重点警備対象から外れており、容疑者の接近を許した。専門家などからは「警護隊の失敗だ」との批判の声が上がっている。また、事件の直前、地元警察が容疑者の男に接触していたことも明らかになった。事件を受け、バイデン大統領は警護の在り方を再検討すると表明した一方、シークレットサービスのチートル長官は「事件発生中、警護隊は現場で迅速に行動した。狙撃チームが銃撃犯を無力化したほか、トランプ氏の安全を確保するための防護措置を実施した」と釈明した。
事件を受け、韓国政府は14日、コメントを発表し、どのような形の政治的暴力も強く糾弾するとの立場を示した。その上で、「今回の事件で衝撃を受けた米国国民を慰労する。韓国国民は米国の国民と共にする」とした。また、ユン・ソギョル（尹錫悦）大統領も同日、自身のX（旧ツイッター）に「ひどい政治暴力に衝撃を禁じ得ない。トランプ前大統領の早期の快癒を祈る」などと投稿した。
韓国では、過去に党代表ら要人が襲撃される事件が起きている。2006年には当時、野党第一党のハンナラ党の代表だったパク・クネ（朴槿恵）元大統領が、ソウル市内で地方選挙の応援演説を行っていた際、男に襲われた。朴氏はカッターナイフで切り付けられ、右頬を約60針縫う重傷を負った。朴氏は2022年3月にも南東部・テグ（大邱）の私邸前で群衆から焼酎瓶を投げつけられた。この際は十数人の警護員による機敏な対応によって守られ、けがはなかった。
また、2022年3月には、当時、「共に民主党」の代表を務めていたソン・ヨンギル氏が大統領選挙前の支援遊説中、男に鈍器で頭を叩かれる事件が起きている。
今年1月には、政治家が襲撃される事件が立て続けに起こり、衝撃が広がった。1月2日には、韓国の最大野党「共に民主党」のイ・ジェミョン（李在明）代表が訪問先の南部・プサン（釜山）で刃物のようなものを持った男に襲われる事件が発生。李氏は新空港の建設地の視察を終え、記者団の取材を受けていた際、支持者を装って近づいてきた男に左首付近を刺された。李氏は頸（けい）部を負傷し約1週間入院した。男はその場で逮捕され、その後、殺人未遂と公職選挙法違反の罪で起訴された。男は犯行の動機について、「共に民主党」が総選挙で多数の議席を獲得し、李氏が次期大統領になる可能性が高まることを防ぐためだったと供述した。今月5日、男の判決公判が釜山地裁であり、地裁は懲役15年（求刑懲役20年）を言い渡した。
また、この事件から約3週間後の1月25日には、与党「国民の力」のペ・ヒョンジン議員がソウル市内の路上で15歳の少年に襲われた。後頭部を石で複数回叩かれたペ氏は一時入院した。
韓国警察庁は政治家を狙った事件が立て続けに起きたことを受け、国会議員ら要人の警護を強化。事前に公開された政党の行事には管轄警察署の刑事らで構成する警護チームを配置し、至近距離で警護に当たるなどしている。
トランプ前大統領が銃撃された事件を受け、韓国警察庁は、改めて要人警護の強化に乗り出した。15～19日まで、要人専担警護隊と各市・道庁警護専門部隊を対象に警護安全活動の強化と現場点検を実施すると発表した。警察庁のユン・ヒグン庁長（長官）は隊員らに対し、最近の国内外の事例を分析し、場所や任務ごとの特性を考慮した訓練を強化するよう指示。「警護警察官の個々人が特段の警戒心を持って任務に当たり、警護に抜かり無きよう努力してほしい」と呼び掛けた。
こうした中、「国民の力」のハン・ドンフン党代表候補へのテロを予告する文章がインターネットコミュニティに掲載されていることが15日、確認された。ハン氏は昨年12月に「国民の力」のトップ、非常対策委員長に就任したが、4月の総選挙で同党が大敗した責任を取り辞任した。しかし、「党を刷新する」などとして、今月行われる党代表選に出馬している。韓国メディアによると、警察は捜査に乗り出すとともに、ハン氏に対し保護措置を講じている。
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