ミッテ区に設置されている少女像は、ドイツの韓国系市民団体「コリア協議会」が中心となり2020年9月に設置された。同様の像は元慰安婦支援団体によって世界各国に設置されており、ドイツ国内にも同協議会が少女像を設置する以前に既に2体あった。いずれも設置場所は私有地だったが、協議会による像は初めて公共の場所に設置されたことから波紋を広げることとなった。像の碑文には「日本軍はアジア太平洋地域の無数の少女や女性を強制連行し、性奴隷にした」などと事実に反する記載もある。
少女像は、元慰安婦らを支援する韓国の市民団体「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯」(正義連)が2011年12月にソウルの日本大使館前に設置して以降、韓国内外に広がっている。しかし、慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的解決」を確認した2015年の日韓合意では、国際社会での非難や批判は控えると約束しており、慰安婦像の第三国の設置はこうした立場とも相いれないことから、日本政府は各国に設置の慰安婦像の早期撤去を求めている。
ミッテ区に設置の像に関しても日本政府はドイツ側に撤去を働きかけ続けてきており、2020年10月、ミッテ区長は一旦、撤去命令を出した。これに、協議会側は「この像は戦時下における女性への性暴力をテーマとしたもので、日本に特化したものではない」と主張。結局、区長は撤去命令を撤回し、区は像の設置期限を2022年9月28日まで延長。その後は、法的根拠なしに区の裁量により容認され、設置のままになっている。
2022年4月に行われた日独首脳会談で、岸田文雄首相がドイツのショルツ首相に撤去に向けて協力を依頼したこともあった。首相自らが要請したことは極めて異例のことだった。しかし、このまま像の設置を欧州の主要国であるドイツで許せば、誤った歴史が国際社会に根付くことになりかねないという日本政府の危機感が背景にあったものとみられている。だが、像の管轄はミッテ区で、ドイツ政府として介入できる余地は少ないことから、ショルツ首相が当時示した反応は薄かったという。
現在まで設置が続いてきたこの少女像だが、ベルリン市のウェグナー市長は今年5月に上川陽子外相と会談した際、「変化を起こすのが重要だ」と述べ、解決を図る方針を示した。これに、協議会は撤去に向けた動きだとして「日本政府の圧力に屈した」と反発した。
そして先月、ベルリン市ミッテ区は、設置容認期限が切れる今年9月28日以降に少女像を撤去するよう協議会に求める方針を明らかにした。韓国メディアは「少女像が撤去の危機」などと伝えた。
また、同市は協議会が申請した慰安婦教育プログラムに対する支援を今年4月に不許可とした。韓国メディアのハンギョレがドイツの公共放送の報道として伝えたところによると、この不許可決定の背景には同市のウェグナー市長が影響を及ぼしたとされる。報道によると、市長は市のプログラムに対する支援の可否を最終決定する諮問委員会の委員に対し、「日本政府との対立が生じる恐れがある」として、協議会からの申請を不許可とするよう求めたという。
ハンギョレは5日付の社説で、こうした動きについて「日本政府がドイツの自治体に圧力をかけ、慰安婦問題の真実を伝えようとする現地の市民団体の活動を中止させたわけだ」と指摘。韓国政府が長年反対の立場を示してきたものの、先月、土壇場で容認に転じた新潟県佐渡市の「佐渡島(さど)の金山」の世界文化遺産登録と関連し、「佐渡鉱山で大きな『外交惨事』を引き起こしたユン・ソギョル(尹錫悦)政権は、戦時に女性に加えられた残酷な『戦争犯罪』である慰安婦問題に対してだけは、明確な立場をもって日本に反対しなければならない」と主張した。
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