これまで、韓国各地では、風船にぶら下げられたごみが落ちて、車のフロントガラスやビニールハウスが損傷したりするなどの被害が出ている。8日には、北朝鮮に近いキョンギド(京畿道)パジュ市で、飛来した「ごみ風船」が原因とみられる火災が発生した。韓国メディアによると、北朝鮮が「ごみ風船」を飛ばし始めた5月28日から先月10日までに、これによる被害の総額は首都圏だけで1億ウォン(約1068万円)を超えることが分かった。韓国紙のハンギョレは10日付の社説で、「『ごみ風船』は大韓民国の日常になりつつある」と指摘。北朝鮮が「ごみ風船」を飛ばしているのは、脱北者団体による対北ビラ散布への対抗措置とみられることから、社説は、北朝鮮の挑発の余地をなくすため、脱北者団体による対北ビラ散布をやめさせるよう、韓国政府に求めた。
韓国ではかつて、ムン・ジェイン(文在寅)前政権時に北朝鮮のビラを飛ばすことなどを禁止する「南北関係発展法」が施行された。ビラ散布を行ってきた人権団体などは同法に反発。韓国の27の人権団体などは、同法が規定した「北朝鮮に向けてビラなどを散布し、国民の生命・身体に危害を及ぼしたり深刻な危険を生じさせたりしてはならない」との条項(同法第24条第1項第3号)が「表現の自由を過度に制限している」として、裁判所に違憲かどうかの判断を求める訴えを起こした。その後、昨年9月、韓国の憲法裁判所は、違憲の判断を示した。韓国統一部(部は省に相当)はそれまで、ビラ散布について団体などに自粛を求めてきたが、憲法裁の判断を受けて自制の要請は行わないことにした。その後、脱北者団体などによる対北ビラ配布は再び活発になった。
北朝鮮は対抗措置として5月末から韓国に向け「ごみ風船」を飛ばし始めた。風船は韓国各地に落下し、通りなどにごみが散乱した。韓国統一部(部は省に相当)は6月、「ごみ風船」の中身の分析結果を発表。紙切れやペットボトル、ビニールなどが多かったが、韓国製のネクタイやジャンパーなどの切れ端も見つかった。また、中身に含まれていた土からは、人の便などにいる寄生虫も検出された。
「ごみ風船」は5月28日に初めて飛ばされ、その後、6月に6回、7月に3回、先月に1回と徐々に減少。先月10日から約1か月近く飛ばされなかったが、今月4日から5日連続で確認された。5日間に少なくとも1100を超える風船が飛ばされたとみられている。5日には、キンポ(金浦)国際空港に近い自動車部品製造工場の屋根に「ごみ風船」が落下して火災が発生した。8日には北朝鮮に近い京畿道パジュ市の倉庫の上に「ごみ風船」が落ちて屋根から出火した。自動車部品製造工場での火事では、風船に取り付けられた装置と残骸とみられる物体が見つかった。韓国軍合同参謀本部は10日、火災について「風船に取り付けられた発熱体タイマーが風船と積載物(ごみ)を分離する熱線を作動する過程で発生した可能性がある」と発表した。
韓国メディアが伝えたところによると、「ごみ風船」による被害額は、北朝鮮が飛ばし始めた5月28日から先月10日までに、首都圏だけで1億52万8000ウォン(約1073万3000円)に上ることが分かった。
韓国紙のハンギョレは10日の社説で、「5月末に飛来し始めた北朝鮮の『ごみ風船』がソウルと京畿道北部一帯の住民を苦しめだしてから既に100日が過ぎた」と指摘。その上で、北朝鮮による風船の散布が、脱北者団体が行う対北ビラ散布への対抗措置として取られているとみられることを踏まえ、「北朝鮮の挑発の余地をなくすために脱北民による北朝鮮へのビラ散布をやめさせるという対策は、(韓国)政府内から出ていない」と政府の対応を批判した。
さらに社説は「11月の米国の大統領選挙を前に、北朝鮮が7回目の核実験などの重大な動きに出る可能性があるというのが韓米当局の見解だ」とし、「このような緊迫した情勢変化の中で、韓国の対北朝鮮ビラと北朝鮮のごみ風船が『偶発的衝突』の口実になる可能性はないのか。政府は無駄な固執をやめ、今からでも対北朝鮮ビラの取り締まりに当たるべきだ」と主張した。
Copyright(C) wowneta.jp