韓国では、特に地方において医師不足が深刻な問題となっており、韓国政府は今年2月、医学部の入学定員を2025年度の入試から2000人増やすと発表した。定員は1998年に3507人に増えたが、2006年に3058人に削減され、以降、毎年度3058人で据え置かれてきている。ユン・ソギョル(尹錫悦)政権は、「国民の健康と命を守るため、医師の拡大はもはや遅らせることのできない時代的課題」とし、定員増の必要性を訴えている。しかし、医療界はこの方針に反発した。医師の全体数は足りており、不足の要因は外科や産婦人科など、いわゆる「必須診療科」の医師が足りないことにあると指摘。政府の方針が示されるや、医療界は研修医が集団辞職するなどして抗議の意思を示した。大規模病院では、研修医は医療を円滑に進める上で欠かせない人材だが、集団離職により人手不足となり、予定されていた手術が延期されたり、新患の受け入れを制限したりするなど混乱が生じた。これを受け、中小規模の病院に患者が殺到したほか、病院が見つからなかった軽症患者が救急車を要請するケースも相次ぐなど、影響は広がった。政府は定員増員に反発して職場を離脱した研修医に対し、医師免許停止などの行政処分を行ったが、7月に撤回し、現場に戻るよう促した。しかし、復帰した研修医はそれほど多くなく、現場は今も人手不足で混乱が続いている。一連の混乱を早期に解消するため、政府は与野党と医療界の4者による協議体を発足させようとしているが、大韓医師協会は13日、政府の態度に変化がない現時点では、参加しないとの立場を表明した。
秋夕の連休は、病院も外来は休診となるため、例年、救命救急センターを訪れる患者が増える。これに加え、今年の秋夕の連休は研修医が多数離職し、病院が医師不足に陥っている中で迎えることとなり、医療の混乱が一層懸念されている。政府は秋夕の連休の前後の11~25日を「救命救急の非常対応週間」に指定。診療に支障が生じる恐れがある25の救命救急センターに、現場の状況をモニタリングして報告する保健福祉部(部は省に相当)の責任者を配置したほか、人手不足で運営に支障が生じている病院に軍医を派遣するなどした。また、医療関係者の献身に少しでも報いるため、週間中は医療保険から医療機関に支払う診療報酬を一時的に引き上げることも決めた。
しかし、国民の懸念は払しょくできていない。連休中の医療の混乱を懸念して、家族の集まりを控えた人もいる。韓国メディアのヘラルド経済が伝えたところによると、肺がんの父を看病しているという38歳のA氏は同メディアの取材に、「今回の秋夕には、家族で集まるのをやめた。かといってどこかに遊びに行ったりもしない。家にがん患者がいるので、人の多い場所で風邪でも引いたら本当に大変だから」と話し、「今年の秋夕の連休は非常に長い(最大9連休)が、その間に父親に何かあったら、『救急患者のたらい回し』に遭うのではないか」と懸念した。
韓国紙のハンギョレは14日付の社説で、「まともな根拠も示さずにひとまず医学部定員2000人増員を推し進めておきながら、実質的な対策作りには手につけずにいる」と尹大統領を批判した。
Copyrights(C) Herald wowkorea.jp