韓国と北朝鮮は2018年9月19日に開かれた南北首脳会談で、「ピョンヤン(平壌)共同宣言」と付属合意書として「9・19軍事合意」を締結した。軍事合意は、南北が軍事的緊張緩和のために努力することを申し合わせる内容で、南北は地上、会場、空中で一切の敵対行為をやめ、非武装地帯(DMZ)を平和地帯に変えるための対策を講じることとした。具体的には、軍事境界線上空への飛行禁止区域の設定、DMZ内にある監視所の試験撤収、黄海の北方限界線(NLL)付近の「平和水域」への転換と範囲の設定、板門店の共同警備区域(JSA)内での観光客の自由往来などが盛り込まれた。しかし、2019年にベトナム・ハノイで開かれた米朝首脳会談が物別れに終わったことで南北関係は再び冷え込み、合意の履行もストップした。
そして昨年11月、韓国政府は北朝鮮が軍事偵察衛星を打ち上げたことを受け、その対抗措置として、南北軍事合意に盛り込まれている「飛行禁止区域設定」の効力停止を決定した。一方、北朝鮮も直後に、「合意によって中止していたすべての軍事的措置を直ちに復活させる」とし、合意の「破棄」を表明。南北軍事境界線付近の監視所を復活させ、兵士や火器を再配置した。
北朝鮮に強硬な姿勢の尹大統領は、かねてから重大な事由が発生した場合は合意の効力を停止する考えを示し、韓国政府は今年6月、合意の効力の全面停止に踏み切った。北朝鮮がごみや汚物をぶら下げた風船を韓国側に飛ばしたことへの対抗措置だった。当時、韓国大統領府は、効力の停止により「北朝鮮の挑発に対する十分かつ即応的な措置が可能になる」とした。期間は「南北間の相互信頼が回復するまで」としている。
効力の停止により、南北軍事境界線付近での拡声器による対北朝鮮宣伝放送も再開できることとなり、韓国軍は今年6月、約6年ぶりに放送を行った。この放送は韓国の豊かな生活ぶりなどを伝えることから、最前線の北朝鮮軍兵士への心理的影響が大きいとされる。7月にも放送が行われ、金正恩政権が韓国文化の流入を厳しく取り締まることを主たる目的として2020年に制定した「反動思想文化排撃法」と、金総書記の思想、行動との矛盾を指摘した。放送では「大韓民国には趣味を幅広く、深く楽しむ人を意味するドクフ(オタク)という言葉があるが、北朝鮮にもドクフがいる」とし、「バスケットボールが好きで、そのボールを抱いて寝るほどの金正恩だ」と指摘。「金正恩自身は米国の文化をもてはやしておきながら、住民には文化を知らせないが、その意図が気になる」と批判した。
2018年9月の南北首脳会談から6年となった今月19日、韓国・光州で記念式典が開かれ、当時、韓国大統領だった文在寅氏が演説した。文氏は「歴代の政権が成し遂げた成果を台無しにしている」として、尹政権の対決的な北朝鮮政策を批判。尹政権が今年6月、「9・19軍事合意」の効力を全面停止させたことについては、「朝鮮半島は軍事的衝突の危機に直面している」とし、「南北の当局はこれ以上状況を悪化させることなく、直ちに対話を始めるべきだ」と訴えた。また、文政権で外務第1次官を務めたチェ・ジョンゴン氏も、合意の全面停止について「道路で誰かが乱暴な運転をしているからと自分も安全ベルトを外したようなものだ」と批判した。
一方、与党「国民の力」のソン・ヨンフン報道官は「北朝鮮は『9.19軍事合意』後の5年間で、実に3600回余りの違反や挑発を繰り返してきた」とし、「『9.19軍事合意』は我が国の安保に脅威を与える鎖として作用した」と主張した。
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