<W解説>韓国で大学入試迫る=浪人受験者数の増加に見る医学部受験偏重主義
<W解説>韓国で大学入試迫る=浪人受験者数の増加に見る医学部受験偏重主義
韓国で今月14日、日本の大学入学共通テストに相当する大学修学能力試験(修能)が行われる。韓国では来年度から大学医学部の定員が増員されるが、その影響もあり、今年の修能は浪人受験者数が2004年度以来の多さとなった。医学部の増員を見越して昨年の試験後、浪人を選択した生徒が多かったとみられる。医学部は相変わらずの人気で、近年は韓国の最難関大学とされるソウル大学に入学しても、1年次で中退して医大や医学部を目指す学生も増えているという。

修能は毎年11月に行われる。韓国の大学入試は随時募集と定時募集に分かれる。随時募集は学校生活記録簿、自己紹介書、教師推薦書、面接などの総合評価で選考される。一方、定時募集は修能の成績で選別される。

修能の日ばかりはあらゆる面で受験生が優先される。官公庁や一部企業は出勤時間を遅らせ、ソウルの公共交通機関は地下鉄やバスを増便する対応を取る。また、各地の空港では、リスニングの試験中、航空機の離発着が禁止される。

韓国社会は言わずと知れた「超学歴社会」。数ある大学の中でも、ソウル大学、ヨンセ(延世)大学、コリョ(高麗)大学の3校は名門難関大学として社会的評価が高く、アルファベット表記の頭文字を取って「SKY」と呼ばれる。大学卒業後、大企業に就職することを見据え、受験生たちは「SKY」に代表される難関大学を目指す。

塾などの受験産業はもちろんのこと、各業界もこの時期、受験生向けの商品を発売したり、イベントを実施したりしている。スターバックスは、幸運を意味する四つ葉のクローバーの形をしたクッキーを発売した。製薬メーカー大手「東亜製薬」や、大手乳製品メーカー「南陽乳業」なども、趣向を凝らした受験生応援イベントを展開している。

一方、韓国の公共放送KBSによると、修能を前に、「勉強の集中力が高まる薬」などとうたう不当な広告がネット上に掲載されるなどの事例が多数確認され、食品医薬品安全処(局)が摘発に乗り出した。同処が先月15日から10日間にわたってオンラインで集中的な点検を実施し、不当広告が掲載された投稿83件と、ADHD(注意欠陥・多動性障害)の治療薬の違法な流通に関する投稿711件を摘発したという。KBSは「摘発された投稿には、健康機能食品でありながら集中力向上に効果がある医薬品のように装った広告や、麻薬成分を含む違法な製品が含まれていた」と報じた。同処はADHDの症状がない人がADHDの治療薬を服用しても、集中力が向上する効果はなく、むしろ不眠症などの副作用が生じる恐れがあるとして注意を呼び掛けている。

韓国教育課程評価院が先月発表した「25年度修能受験願書受付結果」によると、今年の修能は、高校既卒生と大学入学資格検定(大検)合格者のいわゆる浪人受験者の人数が18万1893人となり、2004年度(19万8025人)以来の多さとなった。韓国政府は、医師不足を解消しようと、来年度から医学部の入学定員を増やすことを決めており、これを見越して昨年の試験後に浪人を選択した生徒が多かったとみられ、このことが浪人受験者増に大きく影響したとの見方が出ている。

医学部の人気は高く、ソウル大医学部の志願者数は昨年(1215人)より73人(6 %)、高麗大医学部の志願者数は昨年(1812人)から235人(13%)それぞれ増えた。

また、近年は、ソウル大の他学部に合格し、入学したものの、1年次で自主退学する学生が急増している。韓国国会教育委員会のメンバーで、最大野党「共に民主党」所属のペク・スンア議員が同大から入手した「最近3年間のソウル大新入生の退学状況」によると、同大では2021年から今年1学期までの間に計611人の新入生が自主退学した。自主退学者は2021年度が新入生3358人のうち161人(4.7%)で、翌22年度は3343人のうち204人(5.9%)、そして、昨年度は3610人のうち235人(6.5%)と増加し続けている。

韓国紙の朝鮮日報によると、ユーウェイ教育評価研究所のイ・マンギ所長は同紙の取材に「韓国の最高学府であるソウル大に入った途端に退学するというのは、それよりも高い成績が必要な医学部、歯学部、韓医(韓国漢方医)学部、薬学部などのいわゆる『メディカル学部』への入学を目指しているということだとみられる」と話した。

超学歴社会の韓国において、医師という職業は地位が保障される上、高収入も期待できる魅力的な職業ということだろう。しかし、そうした面だけに惹かれて医学部を受験すべきではない。今年、韓国政府が医学部増員の方針を示すや医療界は反発し、研修医たちは集団離職した。その影響で医師の数が足りず一時休診となる病院もあり、患者たちは予定されていた手術を余儀なくされたりもした。医師となった際、いつ、何時も患者のことを第一に考えるという決意の下、医学部受験に挑むべきだろう。
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