<W解説>韓国・尹錫悦大統領の弾劾訴追案は不成立、今後の展開は?
<W解説>韓国・尹錫悦大統領の弾劾訴追案は不成立、今後の展開は?
戒厳令を出して混乱を招いた韓国のユン・ソギョル(尹錫悦)大統領に対する弾劾(だんがい)訴追案の採決が今月7日、国会の本会議で行われたが、定足数不足で採決が成立せず、弾劾案は自動的に廃案となった。尹氏は大統領の職務を継続することになったが、与党「国民の力」のハン・ドンフン代表は「大統領の速やかな職務停止が必要だ」と述べている。最大野党「共に民主党」などは再度、弾劾案を国会に提出する方針で、今後も不安定な政局が続きそうだ。

事の発端は尹氏が今月3日深夜、非常戒厳令を宣布したことにさかのぼる。尹氏は発表した緊急談話で「『共に民主党』の立法独裁は、大韓民国の憲政秩序を踏みにじり、内乱をたくらむ自明な反国家行為だ」とした上で、「反国家勢力」を撲滅するとして、非常戒厳令を宣布した。

戒厳令の発出は1987年の民主化以降初めてのことだった。尹氏が発令した「非常戒厳令」は韓国憲法が定める戒厳令の一種で、戦時や事変などの非常事態で、軍事上、必要となる場合や公共の秩序を維持するために大統領が発令するもの。行政や司法の機能は軍が掌握し、言論・出版・結社の自由を制限することも認められる。

発令後、武装した戒厳軍の兵士がガラスを割って国会議事堂に突入。国会上空には軍のものとみられるヘリコプターも飛んだ。軍事政権時代を連想させる事態に、発令後、国会前には多くの市民が集まり、戒厳に反対するシュプレヒコールを上げたほか、軍の車両を取り囲むなど騒然とした。

だが、戒厳令は国会議員の過半数が解除を求めた場合、大統領はこれに応じなければならず、発令直後、国会で本会議が開かれ、出席した190人の議員全員が解除に賛成。尹氏はわずか6時間で非常戒厳を解いた。

「共に民主党」など野党6党は、尹氏が「憲法秩序の中断を図り、永続的な権力の奪取を企てる内乱未遂を犯した」などとして憲法違反を指摘し、今月4日、尹氏の弾劾案を国会に提出した。

一方、尹氏は7日、自身が宣布した非常戒厳をめぐり、国民に向けて談話を発表した。尹氏は談話で「非常戒厳の宣布は国政最終責任者の大統領としての切迫感によるものだったが、その過程で国民に不安を与え不便をおかけした」と謝罪。その上で、「法的、政治的責任問題を回避しない」とし、「私の任期を含め、今後の政局安定策はわが党(与党「国民の力」)に一任する」と表明した。だが、辞任には直接言及しなかった。

弾劾訴追案の採決に合わせ、国会前では7日、可決を求める市民の大規模なデモが行われた。聯合ニュースによると、同日午後7時の段階で最大約15万人(警察集計)が参加した。集まった人たちは「尹錫悦を弾劾せよ」と書かれた紙を持ち、「民主主義を守ろう」などと声を上げた。一方、ソウル市内では、尹氏を支持する集会も開かれ、参加者たちは弾劾訴追案の否決を訴えた。

7日、国会は尹氏の弾劾訴追案の採決に臨んだ。国会で現職大統領の弾劾案の採決が行われたのは3回目。2004年の当時のノ・ムヒョン大統領、2016年のパク・クネ大統領の弾劾案はいずれも可決した。ノ氏は憲法裁判所が棄却し職務に復帰、パク氏は憲法裁が罷免を決定した。

弾劾案の可決には国会の在籍議員300人のうち、3分の2の賛成が必要となる。野党、無所属の計192人に加え、与党「国民の力」から8人以上の造反者が出るかどうかが焦点だった。与党は、尹氏が採決を前に発表した談話で戒厳令宣布を謝罪し、任期途中での辞任を示唆したことから、訴追案への反対で結束。与党議員のほとんどは本会議場を退席し、投票を拒んだ。こうした状況に、野党議員からは「少しでも良心があるなら(弾劾に)賛成せよ」などと声が上がった。結局、投票者数が規定に達せず不成立となり、弾劾案は廃案となった。国会のウ・ウォンシク議長は「非常に遺憾だ」と述べた。

弾劾案の廃案により、尹氏の大統領職は継続するが、与党「国民の力」のハン・ドンフン代表は「大統領は事実上職務から排除される」と述べた。一方、「共に民主党」などは、弾劾案の提出を続ける方針。ただ、同一国会では同じ議案を2回審議しない原則があるため、野党は今後、臨時国会の会期を1週間に短くする考え。聯合ニュースによると、同党のユン・ジョングン院内報道官は、12月の臨時国会が始まる11日に弾劾案を再提出し、14日に採決を進めるかとの質問に対し、「大体そのような日程で進められる」と述べたという。

尹氏の非常戒厳の宣布に端を発した政治の混乱は今後も続く見通しだ。
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