尹氏が非常戒厳を宣言したのは先月3日深夜のことだった。非常戒厳は韓国憲法が定める戒厳令の一種。戦時や事変などの非常事態で、軍事上、必要となる場合や公共の秩序を維持するために大統領が発令するもの。行政や司法の機能は軍が掌握し、言論・出版・結社の自由を制限することも認められる。戒厳令の発出は1987年の民主化以降初めてのことだった。
宣言を受け、武装した戒厳軍の兵士がガラスを割って国会議事堂に突入。軍事政権時代を連想させる事態に、国会前には多くの市民が集まり、戒厳に反対するシュプレヒコールを上げたほか、軍の車両を取り囲むなど騒然とした。
だが、戒厳令は国会議員の過半数が解除を求めた場合、大統領はこれに応じなければならず、発令直後、国会で本会議が開かれ、出席議員の全員が解除に賛成。尹氏はわずか6時間で非常戒厳を解いた。
「共に民主党」など野党は、尹氏が「憲法秩序の中断を図り、永続的な権力の奪取を企てる内乱未遂を犯した」などとして憲法違反を指摘し、尹氏の弾劾訴追案を国会に提出した。先月14日に採決が行われ、賛成204票、反対85票で同案は可決した。これを受け、尹氏は職務停止となり、現在、チェ・サンモク経済副首相兼企画財政部長官が大統領の権限を代行している。
憲法裁は6か月以内に尹氏を罷免するか、復職させるかを決める。罷免となった場合は、60日以内に大統領選挙が行われる。
憲法裁は先月16日に弾劾裁判の手続きを開始。証人・証拠や裁判日程などの調整を行った。手続きが終わり、14日、初めてとなる弁論が行われた。オンラインでの傍聴申し込みの倍率は48.6倍に達し、関心の高さを示した。2017年に開かれたパク・クネ(朴槿恵)大統領(当時)の弾劾裁判における弁論時の倍率(4.55倍)と比較しても、かなりの高倍率だったことがわかる。
一方、初弁論に先立ち、尹氏の弁護団は、内乱を首謀した疑いで尹氏に拘束令状が出ていることを受け、身の安全が懸念されるとして尹氏本人は出席しないと表明。14日、法廷に尹氏の姿はなかった。そのため、この日午後2時に始まった弁論は、わずか4分ほどで終了した。
もっとも、弾劾審判で、当事者の出席は義務ではなく、出席するよう強制することもできない。過去の事例では、大統領だったノ・ムヒョン(盧武鉉)、パク・クネ(朴槿恵)両氏も、弾劾審判の審理すべてに出廷しなかった。
次回の弁論は16日に予定され、本格的な争点の整理が始まる。尹氏の弁護士は「安全の問題が解決されれば、大統領はいつでも出席する予定だ」としているが、尹氏が再び出頭を拒否した場合でも、弁護団が出廷して手続きが進められる。
一方、尹氏側は、審判を担当する裁判官のうちの1人が、革新系の裁判官らでつくる法律研究グループ「ウリ法研究会」の会長を歴任したと指摘し、政治思想を問題視。「公正な裁判が期待できない」と主張し、この裁判官を審判から外す「忌避申し立て」をした。韓国の通信社・聯合ニュースは「法曹界では、弾劾裁判のような重要事件においては裁判官が全員一致の結論を出すために、政治指向にとらわれず話し合うとの見方が支配的だ。朴槿恵元大統領の弾劾裁判でも全員一致で罷免を決定した」と解説した。だが、憲法裁は14日の弁論で「忌避申し立て」を棄却した。
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