<W解説>北朝鮮の金総書記にラブコールを送り続ける米トランプ大統領=かつてのような関係には戻れない?
<W解説>北朝鮮の金総書記にラブコールを送り続ける米トランプ大統領=かつてのような関係には戻れない?
今年1月に再就任した米国のトランプ大統領が北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)総書記との対話再開に意欲を見せる中、北朝鮮側は、米国への敵対心を強めている。金総書記はこのほど、海軍の「原子力潜水艦」や艦艇を建造する造船所を視察したが、北朝鮮の国営、朝鮮中央通信によると、金総書記は米軍の原子力空母や原潜が最近、韓国へ寄港したことを念頭に、米国を「砲鑑外交」と批判。「わが国の主権と利益を害する敵の海上や水中の軍事活動を決して座視しない」と表明した。北朝鮮は、今月10日から行われている米韓合同演習についても強く非難しており、今月10日付の朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」は「既に我々は、米国の軍事的な示威行為に対抗し、戦略的な抑止力の行使を継続する意志を表明した」とし、対抗措置も辞さない姿勢を示した。そして同日午後、北朝鮮は、朝鮮半島西側の黄海に向けて、短距離とみられる弾道ミサイル数発を発射した。北朝鮮が弾道ミサイルを発射するのは、今年1月に米国でトランプ氏が大統領に就任してからは初めて。ただ、今回発射された弾道ミサイルの飛距離は60~100キロと近距離なもので、韓国の通信社・聯合ニュースは「短距離の弾道ミサイルを発射してトランプ政権の対北朝鮮政策の方向性を試した可能性がある」と指摘した。英国の公共放送BBCは1月にウェブ上に掲載した解説記事の中で、「トランプ氏がかつて、自分と金氏は『恋に落ちた』と自慢げに話していた頃とは状況が大きく変わってしまった」と指摘した。

トランプ氏は2017~21年の第1次政権時、国際社会で孤立した金総書記と異例の外交関係を築き、朝鮮半島の非核化に向けて3回にわたって会談した。しかし、会談は決裂し、非核化に向けた成果は出せなかった。

トランプ氏は今年1月に再び大統領に就任した際、金総書記との再会に意欲を見せた。同月20日、報道陣の質問に答える形で金総書記との関係性について言及。「我々はとても関係が良かった。今や彼の国は核保有国だが、私たちは仲良くできた。私の返り咲きを喜ぶだろう」と述べた。

また、トランプ氏は同月23日放送のFOXニュースとのインタビューでも、再び金総書記に接触を図るかとの質問に「そうするだろう」と答え、「彼は賢い人物で、私のことを気に入っていた。我々はうまくやっていた」と述べた。

そのトランプ氏は今月4日(現地時間)、連邦議会上下両院の合同会議で施政方針演説を行った。1月の就任以来、議会で演説するのは初めてのことで、演説内容が注目された。トランプ氏は「アメリカン・ドリームは止められない」と宣言。今後のビジョンを示した。しかし、演説では北朝鮮の核問題や金総書記について言及することはなかった。これについて韓国紙の東亜日報によると、同紙の取材に応じた韓国政府の消息筋は「まだ、新政権が北朝鮮政策をはじめとする外交政策のレビューを終えていないため、第2次トランプ政権の外交安全保障政策の最優先事項であるウクライナ戦争の終結に関する内容しか言及しなかった」と分析した。同紙はこうした見方を伝えた上で「トランプ氏が大統領候補時代と就任後、主要行事で正恩氏に対話のラブコールを送る発言をし、米朝対話の意思を公式化したため、今回、北朝鮮に触れなかったことは、戦略的な判断の可能性があるという分析もある」と伝えた。

一方、トランプ氏が就任した際、北朝鮮の朝鮮労働党の機関紙、労働新聞などは論評をつけず、就任の事実を伝えるのみだった。この対応に、当時の東亜日報は「北朝鮮がそれだけトランプ政権の就任に神経を尖らせているということだ」と解説する外交消息筋の話を伝えた。

英国の公共放送BBCは前出のウェブ掲載記事で、北朝鮮の動向を分析している米スティムソン・センターの上級フェローで、同センターのコリア・プロログラム・ディレクター、ジェニー・タウン氏の見解を紹介。タウン氏は「北朝鮮は、(第2次トランプ政権の)最初の1年を通して、金正恩氏が2017年(第1次トランプ政権発足)当時の彼とは違うということを、トランプ氏に証明しようとするでしょう。軍事的にも、政治的にも強さを増していると。そして、再び交渉の場に戻ることがあれば、今回は全く異なる交渉になるだろうということを」と指摘した。

その片鱗は既に見え始めており、今月8日、金総書記は海軍の原子力潜水艦の建造現場を視察した際、「敵国の侵略の基本ルートである海をどう守るかに懸かっている」と述べ、早期に戦力を向上させるよう指示した。この視察のニュースを、韓国紙の中央日報は「金正恩委員長、トランプ大統領に見せるように原子力潜水艦公開」との見出しで伝えた。
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