<W解説>韓国・大統領、最大野党代表への脅迫で緊張高まる=尹氏による「非常戒厳」から続く情勢不安
<W解説>韓国・大統領、最大野党代表への脅迫で緊張高まる=尹氏による「非常戒厳」から続く情勢不安
韓国メディアが今月12日に伝えたところによると、韓国の最大野党「共に民主党」のイ・ジェミョン(李在明)代表を「暗殺する計画を立てている」などとするメールが、同党の複数の議員のもとに届いたことがわかった。同党は、警察に李代表の身辺警護の強化を依頼した。李代表は弾劾訴追されたユン・ソギョル(尹錫悦)大統領が弾劾・罷免された場合に行われる大統領選挙で、最有力候補と目される。一方、SNS上では、今年1月に内乱罪で逮捕・起訴され、今月8日に釈放された尹大統領を暗殺するとの趣旨の脅迫的な内容の投稿が相次いでおり、警察が捜査に着手した。

韓国では、昨年12月に尹氏が「非常戒厳」を宣言して以降、政治の混乱が続いており、尹氏の弾劾、罷免の是非をめぐり、国民を二分する事態となっている。

非常戒厳は韓国憲法が定める戒厳令の一種。戦時や事変などの非常事態で、軍事上、必要となる場合や公共の秩序を維持するために大統領が発令するものだ。戒厳令の発出は1987年の民主化以降初めてのことだった。

尹氏はわずか6時間で非常戒厳を解いたが、「共に民主党」など野党は、尹氏が「憲法秩序の中断を図り、永続的な権力の奪取を企てる内乱未遂を犯した」などとして憲法違反を指摘し、尹氏の弾劾訴追案を国会に提出した。同案が可決したことを受け、尹氏は職務停止となり、現在、チェ・サンモク経済副首相兼企画財政部長官が大統領の権限を代行している。

また、非常戒厳の宣言による政治的、社会的混乱は大きく、野党は尹氏に内乱の疑いがあるとして告発。公捜庁と警察の合同捜査本部が捜査を進め、同本部は1月15日、尹氏の身柄を拘束。韓国の現職大統領の拘束は憲政史上初めてのことだった。さらに捜査本部は同月19日未明、内乱を首謀した疑いなどで尹氏を逮捕した。検察は同26日に起訴したが、弁護側はその時点で身柄を拘束できる期間を過ぎており、違法だと主張。裁判所に、尹氏の拘束の取り消しを求めた。ソウル中央地裁は今月7日、これを認める決定を出した。検察が決定を不服として即時抗告するか注目されたが、「裁判所の決定を尊重する」として断念。これを受け尹氏は8日、釈放された。身柄を拘束されてから52日ぶりに大統領公邸に戻った尹氏は、今後、在宅で刑事裁判を受ける。

尹氏をめぐっては弾劾裁判も進められており、尹氏の罷免の是非を判断する憲法裁判所の弾劾審判の決定が間もなく下される。憲法裁で弾劾・罷免の判決が出た場合は2か月以内に大統領選挙が行われる。

大統領選になった場合、最有力と目されているのが「共に民主党」の李代表だ。同党は大統領選が行われる可能性が高いと判断し、早くも選挙対策を進めている。こうした中、韓国メディアによると、このほど、同党の執行部を含む複数の同党所属議員のスマートフォンに、李氏の暗殺計画があることを匂わせる内容のメールが届いた。「HID(北朝鮮に派遣される工作部隊)707部隊のOB要員が、ロシア製の拳銃を密輸し、李代表を暗殺する計画を持っている」との内容で、同党のファン・ジョンア報道官は「『軍側から受けた情報だ』などと具体的な情報提供がたくさんあった」と明らかにした。同党は警察に李氏の身辺保護の強化を要請した。

一方、韓国メディアによると、X(旧ツイッター)では、尹氏に対しても「尹錫悦の拘束が取り消された?暗殺しろってことか。刃物を持って首を取りに行く」などと、脅迫的な内容の投稿が複数確認されたという。ソウル地方警察庁サイバー犯罪捜査隊が捜査に着手した。

憲法裁による弾劾審判の宣告日が迫る中、韓国では弾劾賛成派と反対派の集会が激化しており、国内は緊張が高まっている。そうした中、尹氏、李氏の両氏が脅迫される事態に、警察は警戒を強めている。
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