李氏をめぐっては、城南市長だった当時に進めた都市開発に関連し、2022年の大統領選の候補者だった2021年に虚偽の発言をしたとして公職選挙法違反罪に問われ、昨年11月の一審で懲役1年、執行猶予2年の有罪判決を受けた。しかし、この判決に李氏側と検察の双方が控訴し、ソウル高裁は今年3月、逆転無罪を言い渡した。その後、検察側は上告。大法院(最高裁)はこの事件を裁判官全員で審理する「全員合議体」を構成し、審理を進めた。大法院は5月、李氏の発言の一部について「虚偽事実の公表」にあたると判断し、二審判決を破棄し、ソウル高裁に審理を差し戻した。
大法院の判断に、李氏は当時、記者団に対し、「私の考えとは全く異なる方向の判決だ」と不満を口にした。李氏が所属する「共に民主党」は大法院を強く非難した。李氏は当時、大統領選への出馬を予定している段階で、大統領選前に罰金100万ウォン(約10万円)以上の刑が確定すれば、出馬できなくなる可能性があった。そのため、李氏側は、公判を大統領選後に延期するよう求める申請書を裁判所に提出。候補者の均等な選挙運動の機会を保障した憲法116条と、大統領選候補者の選挙運動期間中の逮捕・拘束を禁じた公職選挙法第11条を理由に挙げた。ソウル高裁はこれを受け入れ、李氏の差し戻し審について、初公判を大統領後の今月18日に延期すると発表していた。
その後、李氏は今月3日の大統領選に当選。第21代韓国大統領に就任した。前述のように、韓国の憲法第84条は「大統領は内乱と外患の罪を除き、在職中に訴追されない」と規定しており、李氏の裁判の扱いがどのようになるのか注目されていた。
9日、ソウル高裁は18日に開く予定だった第1回公判期日の延期を発表。10日にはソウル中央地裁が、都市開発事業に絡む不正事件で背任罪などに問われた李氏の裁判を延期すると発表した。この裁判は今月24日に開く予定だった。両裁判所とも新たな期日は指定せず、各公判は事実上の無期限延期となった。
聯合ニュースは「李大統領が就任前に起訴された5件の刑事裁判のうち、公職選挙法違反事件と都市開発事業をめぐる不正事件の裁判が在任中は進行されない見通しとなったことで、残り3件の裁判も同様の措置が取られる可能性が高くなった」と伝えた。
「不訴追特権」が適用された形だが、憲法は、刑事裁判が進行中の被告人が大統領に就任することを想定しておらず、憲法規定をめぐっては、大統領就任前に起訴された事件の公判の扱いは専門家の間でも意見が分かれていた。聯合ニュースは10日に配信した記事で、「ソウル高裁と同様、ソウル中央地裁も大統領の『不逮捕特権』が就任前に起訴された事件にも適用されると解釈したようだ」と解説した。一方、韓国紙のハンギョレが伝えたところによると、野党「国民の力」からは「司法府が政治権力に屈服した」と批判の声が上がっている。同紙によると、同党のキム・ヨンテ非常対策委員長は国会議員総会でソウル高裁が9日に公判の延期を発表したことについて「(大統領選前の5月に期日を延期したソウル高裁が)今回またも(裁判を)延期したのだから、裁判所が統治権力の顔色をうかがっていると自認したも同然だ」と述べた。また、与党「共に民主党」が刑事訴訟法の改正を進める考えを明らかにしていることについてキム氏は「ここまで来ると、司法府を憲法が定めた独立機関ではなく、政治権力の下命機関くらいに考えているということだ」と非難した。
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