<W解説>日韓の摩擦に巻き込まれた対馬の仏像、今度は友好のきっかけに?韓国側に像の3Dデータ提供へ
<W解説>日韓の摩擦に巻き込まれた対馬の仏像、今度は友好のきっかけに?韓国側に像の3Dデータ提供へ
共同通信などが24日、伝えたところによると、長崎県対馬市の観音寺から盗まれ、先月、韓国から返還された「観世音菩薩坐像(かんぜおんぼさつざぞう)」について、3D計測した仏像のデータを、同寺が韓国側に提供する方向で調整していることが分かった。共同は関係者の話としてこれを伝えた。韓国中部・チュンチョンナムド(忠清南道)ソサン(瑞山)にあるプソクサ(浮石寺)は、仏像を返還するに当たり、今後のレプリカ制作などを念頭に3Dスキャンを行えるよう日本側に協力を要請していた。4月の時点で、韓国の通信社・聯合ニュースは、この交渉は難航していると伝えていた。

観音寺が所蔵していた長崎県の指定有形文化財のこの像は2012年10月、韓国人窃盗団によって盗まれ、韓国に持ち込まれた。翌2013年に窃盗団が韓国警察に逮捕され仏像は押収されたが、韓国の浮石寺は、仏像について「中世の時代に倭寇に略奪されたものだ」と主張。2016年に韓国政府を相手取って、仏像の日本への返還差し止めを求める訴訟を起こした。

2017年、一審で韓国の裁判所は「仏像は浮石寺の所有と十分に推定できる」との判断を下し、この判決に日本側は反発。日韓関係悪化の一因にもなった。しかし、2023年2月の二審判決で、テジョン(大田)高裁は、一審の判断を覆し、観音寺の所有権を認める判決を言い渡した。高裁は「1330年に浮石寺が仏像を制作したという事実関係は認めることができ、倭寇が略奪し、違法に持ち出したとみなせる証拠もある」とする一方、「当時の浮石寺が現在の浮石寺と同一の宗教団体ということが立証できない」と指摘。観音寺が一定期間にわたり、平穏かつ公然と持つことで所有権が認められる、日韓の民法上の「取得時効」が成立し、現在の所有権は観音寺側にあると認定した。浮石寺はこの判決を不服として最高裁(大法院)に上告したが、2023年10月、大法院は浮石寺側の訴えを退け、仏像の所有権は観音寺にあると認める判決を言い渡した。大法院は14世紀に仏像を作った「瑞州浮石寺」と現在の浮石寺を同一と認定した一方、民法上の「取得時効」が成立しているとした二審の判断を支持した。

元徴用工訴訟問題と並んで日韓関係悪化の一因となってきたこの問題は、大法院判決を受け、仏像の日本への返却手続きが進むとみられていたが、その後もしばらく返還に向けた目立った動きは見られなかった。

だが、昨年6月、浮石寺は、像の安寧を願って100日間の法要を執り行った後、観音寺側に返還する意向を示した。法要は今年1月25日から執り行われた。先月10日には浮石寺で最後の法要が執り行われ、円牛住職は「今後も対馬と円満に交流し、(仏像の)交流展示会などで文化財の価値を生かす方策を話し合って世界の模範にしたい」とあいさつした。仏像は日本に引き渡され、同12日、約12年半ぶりに対馬市に戻った。仏像はその後、市内の対馬博物館で先月16日~今月15日まで特別公開され、多くの人たちが観覧に訪れた。

日韓関係に一時は摩擦をもたらしたこの問題は、ようやく決着したが、この仏像をめぐり、今度は友好発展的な動きが出てきた。共同通信などが24日、伝えたところによると、観音寺が3D計測した仏像のデータを、韓国側に提供する方向で調整していることが分かった。浮石寺は像を返還するに当たり、複製品2体を制作。1体は研究用として活用し、もう1体については当初の姿を再現するため3Dスキャンが行えるよう、日本側に協力を要請していた。韓国の聯合ニュースは4月、浮石寺の円牛住職が「大きな目で見れば、世界の文化遺産である仏像の価値が最大限活用されるよう、日本側も協力してほしい」と話していることを伝えた。

共同通信によると、観音寺側は予算の問題もあり、求めに応じるか否か判断に苦慮していたというが、対馬市出身で3D計測を手がける大阪の企業の社長が、無償でのデータ化を市に申し出たという。社長は韓国側の要望は知らず、文化財保全のための提案だったいうが、観音寺の田中節孝前住職は、この話を「渡りに船」と歓迎している。共同は「日韓双方でデータを活用する方向へ話が進んだ」と伝えた。計測は今月27日に行われる予定。NHKによると、田中前住職は「ご縁ができた韓国の寺の信者の方たちには、複製ではあっても仏様を身近に感じてもらえればと思う」と話している。

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