尹氏が昨年12月3日に国内に宣言した「非常戒厳」は韓国憲法が定める戒厳令の一種。戦時や事変などの非常事態で、軍事上、必要となる場合や公共の秩序を維持するために大統領が発令するものだ。行政や司法の機能は軍が掌握し、言論・出版・結社の自由を制限することも認められる。
1987年の民主化以降初めてとなる「非常戒厳」の宣言を受け、当時、武装した戒厳軍の兵士がガラスを割って国会議事堂に突入。軍事政権時代を連想させる事態に、国会前には多くの市民が集まり、戒厳に反対するシュプレヒコールを上げたほか、軍の車両を取り囲むなど騒然とした。
だが、戒厳令は国会議員の過半数が解除を求めた場合、大統領はこれに応じなければならず、発令直後、国会で本会議が開かれ、出席議員の全員が解除に賛成。尹氏はわずか6時間で非常戒厳を解いた。
だが、その後も社会の混乱は続いた。非常戒厳を宣言した尹氏は、今年4月、憲法裁判所の弾劾審判で罷免された。また、内乱を首謀した罪などで起訴され、現在も公判が続いている。尹氏の罷免を受けて6月には大統領選が行われ、「社会統合」を掲げた革新系「共に民主党」のイ・ジェミョン(李在明)氏が当選した。その後、戒厳に関与した尹前政権の中心人物を、政府から独立して捜査にあたらせるため、国会で成立した特別検察法に基づき特別検察官(特検)チームが発足。チームは「非常戒厳」の全容解明に向け捜査を進めてきた。特検は、尹氏のほか、政府高官や軍関係者ら、これまでに計24人を起訴している。
特検は半年に及ぶ一連の捜査を終え、今月15日、結果を公表した。当時の軍幹部や尹氏の側近らが残した手帳、携帯電話のメモなどから、尹氏が「非常戒厳」を宣布した動機などが判明したとした。この日、記者会見したチョ・ウンソク特別検察官は「ユン氏は軍を動員して武力で政治活動と国会機能を停止させ、国会に代わる非常立法機構を通じて立法権と司法権を掌握しようとした」とし、「その後、反対勢力を排除し、権力を独占・維持する目的で非常戒厳を宣布した事実を確認した」と明らかにした。さらに、あっせん収賄罪などで公判中の尹氏の妻、キム・ゴンヒ(金建希)氏の司法リスク解消も、尹氏の戒厳令宣布の判断に一定の影響を与えたとみられるという。尹氏は22年5月の大統領就任後の間もない頃から、戒厳の宣言などを行う大統領の権利「非常大権」について複数回にわたって言及しており、特別検察は、23年から軍指揮部と綿密に戒厳を準備してきたとの判断を示した。尹氏らが軍の人事を控えた同年10月、「非常戒厳を(人事の)前と後のどちらにするか」を検討していたことが分かったという。また、尹氏が戒厳令の大義名分をつくるため、北朝鮮に無人機を飛ばし、武力衝突を誘発しようとしたことも明らかにした。韓国軍は実際に無人機を飛ばしたが、北朝鮮が軍事対応に乗り出すことはなく、計画は失敗に終わった。
捜査結果の発表を受け、韓国紙のハンギョレは16日に掲載の社説で、「尹前大統領は、当時野党だった『共に民主党』の『立法独裁』と『弾劾乱発』などを非常戒厳の名目に掲げたが、言い訳に過ぎないというのが特検の結論だ」と指摘した。尹氏らの公判は続いており、社説は「特検の捜査が終わっただけに、司法府も裁判に拍車をかけ、一日も早く内乱の清算が行われるよう、最善を尽くさなければならない」と訴えた。
一方、朝鮮日報は同じく16日付けの社説で「違法な非常戒厳事態は、今年1月に検察が前大統領を内乱の罪で起訴した時、既に大部分が明らかになっていた」と指摘。「(6月に捜査に着手した)特検が新たに明らかにしたのは、尹前大統領が2023年10月以前から非常戒厳の宣布を準備しており、金建希夫人の司法リスクが戒厳宣布に影響を及ぼしたと判断したことぐらいだ。実に238人の捜査員を投入して6カ月にわたって捜査した結果がこれだ」と批判した。
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