事故が起きたのは、ソウル市ソデムン(西大門)区の高架道路。高架の一部を切断していた際、構造物が2.9センチ沈下し、その安全点検を行っている途中に構造物が崩れ落ちた。安全点検には複数人が立ち会っており、このうち、施工会社に所属するいずれも60代の現場管理所長と監理責任者、外部専門家の50代の構造技術士の計3人が構造物の下敷きになって死亡した。また、30代~50代の男性3人が負傷した。
66年に建設されたこの高架道路は全長355メートル、幅14.9メートルで、18の橋脚からなる。2019年にコンクリート片の落下事故が起きており、その際の安全診断では「緊急の補修が必要」な「D等級」と判定された。22年には梁(はり)のコンクリート剥離など、腐食や損傷が相次いだ。老朽化によるこれら問題が指摘されたことを受けて、昨年9月から全面撤去に向けた解体工事が行われていた。
前述のように、事故は高架の一部を切断した際、構造物が2.9センチ沈下し、安全点検を行っていた時に発生した。韓国紙の中央日報によると、点検には13人の専門家らが構造物に入っていたといい、コングク(建国)大学建築学部のアン・ヒョンジュン教授は同紙の取材に、「既に弱っていた構造物に何の安全措置もなく複数が構造物に入り、点検を行ったことで、崩落の危険が高まった」との見方を示した。
また、韓国紙の東亜日報によると、解体工事を発注したソウル市が作成した作業指針書には「崩落防止のため必要時には支柱など補強物を設置しなければならい」と明記されていたが、現場にはこうした補強物の設置がなかったことが分かった。この指針に従わなかった理由についてソウル市都市基盤施設本部の関係者は同紙の取材に「ガーダー(構造物を支える設置物)で十分に支えられていたため、別途の仮設ベント(支柱)などは必要なかった」と説明しているという。
さらに、事故前、構造物が沈下し、安全点検のために足場に上がった現場管理所長や監理団長ら5人は、カラビナなどの「命綱」を着用していなかったことが分かった。
中央日報は27日掲載の社説で、「当初から構造的脆弱(ぜいじゃく)性が指摘されていた建造物だったこともあり、撤去の過程の安全管理はさらに厳格であるべきだった」と指摘。「発注機関であるソウル市と施工会社、監理団がそれぞれの責任を果たしていたのかも総合的に振り返る必要がある」と主張した。韓国では2021年6月に南西部のクァンジュ(光州)のハクトン(鶴洞)再開発地域で、撤去中だった5階建て建物が道路側へ崩れて市内バスが下敷きとなり、9人が死亡した事故が起きている。同地域は当時、光州の代表的な老朽住宅密集地域だった。社説は今回の事故同様、老朽化した建造物で起きたこの光州での事故を取り上げ、「古い施設を放置することはできないが、撤去の過程で別の危険を生み出してもならない。今回の事故を契機に、高危険撤去工事の安全基準と現場管理体系を改めて点検しなければならない」と訴えた。
韓国では、今回の事故の前には首都圏広域急行鉄道(GTX)A路線のサムソン(三成)駅の工事区間で鉄筋不足が確認され、今月中旬、国土交通部(部は省に相当)が緊急現場点検と監査に乗り出すなど、公共インフラ工事で安全管理体制の揺らぎが指摘される事態となっている。イ・ジェミョン(李在明)大統領は28日の首席補佐官会議で今回の事故と三成駅の工事現場での鉄筋不足問題に触れ、「これらの事案は、誰よりも国民の安全のために先頭に立つべき公共部門が関わっているという点で深刻が大きい」と懸念を示した。その上で、「関係機関は迅速に真相を究明し、その結果に基づいて地位の上下を問わず、厳格に責任を追及しなければならない」と述べた。
事故を受け、警察などが原因の分析と捜査を進めている。ソウル警察庁は約50人からなる捜査チームを発足。高架の撤去作業が既定の手順通りに進められていたかなどを調べている。
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