<W解説>韓国、検察の補充捜査権廃止へ=左派悲願も、懸念の声多く
<W解説>韓国、検察の補充捜査権廃止へ=左派悲願も、懸念の声多く
韓国の国会本会議で先月31日に可決された、検察官による直接捜査の権限を廃止する改正刑事訴訟法について、警察捜査の不備を検察が補う仕組みが失われることなどへの国民の懸念が高まっている。検察の政治的捜査を問題視してきた左派陣営にとって検察の権限を抑制する同法改正は悲願だったが、ある世論調査では、検察の補充捜査権を「維持すべき」との回答が61%に上った。

改正同法の柱は、一般の刑事事件では警察が捜査を担い、検察は起訴や公判に専念する、捜査権と起訴権の分離だ。警察の捜査の不備や疑問点を検察が補う補充捜査の権限を原則廃止とする。改正案は、イ・ジェミョン(李在明)政権を支える革新系与党「共に民主党」の主導で先月31日に採決が行われ、出席議員178人のうち、賛成175人、反対2人、棄権1人で可決した。韓国メディアは「70年以上続いた検察による直接捜査の時代が終わる」などと伝えた。

同法改正を受けク・ジャヒョン検事総長代行は先月31日、辞意を表明した。ク氏は「これまで国民の権利を保障し、犯罪から社会を守るための制度改革の方向性について絶えず考えてきた」とし、「今回の刑訴法改正案は検察官が捜査記録だけに頼って起訴するかどうかを判断せざるを得ず、被害者保護に万全を期すことが難しいことに加え、時間と費用がかさむ非効率な構造になっているとの懸念を提起し続けてきた」と述べた。その上で、「こうした懸念が受け入れられないまま改正案が可決したことは無念でならない」と心境を吐露し、政府に対し、「制度の空白はないか、国民を保護する上で不備はないか、もう一度見直していただくよう切にお願いする」と訴えた。

同法改正により、勾留期限や公訴時効が迫った事件で、懸念が指摘されている。現行法では、警察から送検された事件の立証が不十分な場合、検察が直接、補充捜査が可能だが、改正法施行後は警察に補充捜査を求める必要がある。通信社のニュース1は「容疑者が拘留されている事件では、警察の補充捜査が遅れれば、検察官が起訴を準備する時間が不足するとの指摘がある」と伝えた。検察は拘留中の容疑者を引き渡されてから10日以内、最長でも20日以内に起訴するか否かを決める必要がある。ニュース1は「捜査機関の間で記録をやり取りするだけでも時間がかかり、補充捜査が不十分だった場合、それを補う余裕がないとの懸念が出ている」と報じた。

選挙犯罪の処理が遅れるとの懸念も出ている。例えば、今年6月3日に投開票された統一地方選挙で、警察は4191人を摘発した。選挙犯罪の公訴時効は投票日から6か月であるため、同法改正に基づき事件が処理されれば、警察と検察間の事件の往復で時間を要し、12月3日の公訴時効までに起訴できない事案が出てくる可能性が懸念されている。

裁判官からも懸念の声が出ている。ニュース1によると、ある高等裁判所の判事は取材に、裁判所が追加確認を求めても、捜査権を持たない検察は新たな証拠を提出できず、既存の記録だけで審理せざるを得なくなると指摘。証拠が不足すれば、裁判所は無罪を言い渡すほかなく、結果的に被害者が不利益を受けると懸念した。

また女性たちからは、改正同法が女性暴力事件の被害者を守る最低限のセーフティーネットを奪うものだとして懸念が出ている。女性の党は今月9日、ソウル市内で検察の補完捜査権の廃止に反対する集会を開き、報道によると約200人が参加したという。集会に参加した弁護士の一人は、同法改正を進める与党「共に民主党」が、警察の捜査に問題があった際は別の捜査官や上級機関に担当を替えればいいと主張していることを問題視。「被害者側からすれば、適切な担当者に当たるまで数年間、たらい回しにされることになる。その間に重要な証拠が失われ、捜査の適切な時期を逃せば、被害者は追い詰められる」と主張した。

このように、改正同法に対する国民の懸念は高まっており、野党・改革新党が実施した世論調査では、改正同法が公布、施行された場合、犯罪捜査の環境が「悪化する」との回答は64.0%に上った。また、李大統領が改正同法の再議要求権(拒否権)を行使すべきとの回答が59.6%で、拒否権を行使せずそのまま公布すべき(34.0%)を上回った。

李氏は4日の閣議の際は、改正同法について「捜査と起訴の分離は、非正常な刑事司法システムを正常化する第一歩だ」と述べていたが、世論の批判を意識したのか、11日の閣議では「一般的な犯罪被害への対応をどうするか、国民の懸念にどう対処するのかについて、適切な時期に対策を報告してほしい」と指示した。同法改正は李氏の最近の支持率低下の一因にもなっていると指摘されている。
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