甲府市で2021年10月、50代の夫婦が自宅で殺害され、住宅が全焼した放火殺人事件が発生。無職の遠藤裕喜被告(21)が殺人と現住建造物等放火などの罪に問われた。18日、遠藤被告に対する裁判員裁判の判決が甲府地裁であり、三上潤裁判長は求刑通り死刑を言い渡した。遠藤被告は犯行当時19歳。一昨年、18歳と19歳を「特定少年」と位置付ける改正少年法が施行されており、「特定少年」に初めて死刑が言い渡された。判決で、三上裁判長は、凶器となった果物ナイフを事前に用意するなど犯行に計画性があり、「目的実現に向けて自分の行動をコントロールできていた」と指摘。弁護側は精神障害があったなどと主張し、極刑を回避するよう求めていたが、判決は完全責任能力があったと結論づけた。三上裁判長は「19歳であることを最大限考慮しても更生の可能性は低く、死刑を回避する事情にはならない」などとし、死刑を言い渡した。
中央日報は、この判決のニュースを報じながら、「(犯行当時)10代の未成年に死刑が宣告された日本と違い、韓国は1997年以降、死刑が執行されていない」と解説した。ただ、死刑制度自体は維持されており、現在59人の死刑囚がいる。経済協力開発機構(OECD)加盟38か国のうち死刑制度を維持している国は日本と米国、韓国の3か国のみとなっている。
ユン・ソギョル(尹錫悦)大統領は一昨年5月の就任後、死刑制度について公に立場を明らかにしていないが、中央日報によると、尹大統領はかつて時事週刊誌のインタビューで「強力な処罰は犯罪の抑止と比例しないという、いくつかの分析結果がある」と話したという。しかし同紙は、昨年4月に掲載した記事で「死刑制度に関して尹政権の悩みが感じられる」と指摘。「尹政権は国内と国外で異なる立場を示している」と伝えた。尹政権は一昨年7月の憲法裁判所弁論では死刑制度の存続論を前面に出したが、その5か月後の国連総会では死刑執行モラトリアム(事実上の死刑廃止)に賛成票を投じた。これに、韓国刑事・法務政策研究院の室長は同紙の取材に対し、「死刑制度をめぐる尹政権のジレンマ的な状況が表れた場面」と指摘した。
こうした中、昨年10月、韓国法務部(法務省に相当)と矯正局は、南東部のテグ(大邱)拘置所に収監されていた死刑囚2人をソウル拘置所に移送した。このうちの1人は、21人を殺害、もう一人は新婚夫婦を猟銃で殺害した罪で死刑判決を受け収監されている。2人が死刑執行が可能なソウル拘置所に移送されたことから、これは執行のための動きではないかと当時、注目が高まった。しかし、執行はされなかった。
韓国では、昨年7月~8月にかけて、無差別殺傷事件が相次いだことから処罰感情が高まり、実質的に廃止となっている死刑制度の復活を求める声が高まった。
前述のように、韓国には現在59人の死刑囚がいるが、中央日報は「1審で死刑が宣告されても、2審と大法院(最高裁判所)を経てほとんどが無期懲役に減刑される」と指摘した。終身刑がないため、死刑の次に重い処罰は仮釈放の可能性がある無期懲役刑となっている。こうした現状と、国民の処罰感情の高まりを受けて出てきたのが、「仮釈放のない無期刑」の導入をめぐる議論で、同紙は「実質的に死刑宣告が難しい現状の中で、無期刑を宣告された対象者のうち、さらに厳しい処罰が必要と判断された者に限り、『仮釈放不可』の条件を課すものだ」と解説。「仮釈放のない無期刑」を「絶対的終身刑」と表現した。
先月、大法院トップの大法院長に就任したチョ・ヒデ氏も「絶対的終身刑」の新設に前向きな考えを示している。同紙によると、コリョ(高麗)大学法学専門大学院のチャン・ヨンス教授は同紙の取材に「仮釈放のない無期刑が導入されれば、再犯の可能性を減らせるだろう」と指摘。「死刑宣告を忌避する裁判所に選択肢をもう一つ付与して、凶悪犯をさらに重く処罰できるだろう」と話した。
関連法が昨年10月に政府から発議されており、今後の審議の行方が注目される。
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