<W解説>2015年に世界文化遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産」、韓国側の不満は解消されず
<W解説>2015年に世界文化遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産」、韓国側の不満は解消されず
2015年に世界文化遺産に登録された、長崎市の端島(軍艦島)などで構成する「明治日本の産業革命遺産」をめぐり、ユネスコ(国連教育科学文化機関)世界遺産委員会は今月7日、島での負の歴史に関する日本の取り組みの再点検を求めていた韓国政府の主張を退けた。韓国は端島では朝鮮半島出身労働者の強制労働があったとして、世界遺産登録の際、これに反発した経緯がある。今回の委員会での結果について、韓国政府は遺憾の意を示している。

「明治日本の産業革命遺産」は、長崎など8県11市にまたがる23の構成遺産からなる。西洋から非西洋世界への技術移転と日本の伝統文化を融合させ、1850年代~1910年までに急速な発展を遂げた炭鉱や、鉄鋼業、造船業に関する文化遺産で、2015年に世界文化遺産に登録された。

しかし、韓国は登録時、23の施設の中に含まれる軍艦島では多くの朝鮮人が強制労働させられ犠牲になったと主張し、登録に反発した。これに対して日本は、「犠牲者を記憶にとどめる対応措置をとる」と表明し、2020年6月、東京に「明治日本の産業革命遺産」の全体像を紹介する産業遺産情報センターを開設した。だが、センターでは当初、朝鮮半島出身者が働いていたと明示する一方、差別的な対応はなかったとする元島民の証言も紹介し、韓国側は「展示は強制労働させられた朝鮮半島出身者の被害が明確に説明されておらず、遺産登録時の約束が守られていない」などと批判した。

ユネスコは2021年7月、戦時徴用された朝鮮半島出身者に関する日本政府の説明が不十分だとする決議案を採択。世界遺産委員会は、「強い遺憾」を表明し、産業遺産情報センターの展示を念頭に改善を求めた。決議案では、意思に反して連行され、過酷な状況での労働を強いられた多数の朝鮮人たちについて理解できるような措置を講じるよう求めた。これに、日本政府は「わが国は政府が約束した措置を含めて誠実に履行してきた。こうした立場を踏まえ、適切に対応したい」とした。しかし、戦時中に軍艦島で過ごした元島民らからは、世界遺産委員会の決議案に反発が上がり、決議案が出された当時、産経新聞は憤る元島民らの声を紹介。「韓国側が朝鮮人に過酷な労働を強いたとして挙げている資料は、まやかしの資料ばかり」「到底受け入れられない。なぜユネスコは韓国の立場だけを忖度(そんたく)するのか」などと声が上がった。

決議案を受け、日本政府は改善の進ちょく状況の報告を世界遺産委員会から求められ、2022年12月、報告書を提出した。報告書では、世界遺産委員会が決議案で「強い遺憾」を表明したことについて「真摯に受け止める」とした上で、出典が明らかになった資料や証言に基づき、引き続き軍艦島の歴史を次世代に継承していく考えを示した。世界遺産委員会は2023年9月、朝鮮半島出身労働者らの歴史に関して施設の展示内容を補強するなど、日本が行った追加の取り組みを評価し、「対話継続」を求める決議を採択した。

しかし、韓国側は「日本との対話では明白な進展がなかった」とし、今回の世界遺産委員会で日本の対応を議題に加え、委員会として再点検すべきと主張した。これに対し、日本は2国間で議論すべき内容だとして、韓国側の訴えを削除した修正案を提示。委員国による投票で、日本の修正案を賛成7、反対3で可決した。

今回の採決について伝えた韓国紙の朝鮮日報は「16日まで予定されている今回の会議はもちろん、今後、ユネスコとして軍艦島関連の事案が上程される見込みはほぼなくなった」と指摘した。中央日報は「過去史をめぐる対立に再び火がつく余地も残したといえる」と伝えた。

決定を受け、韓国外交部(外務省に相当)の当局者は遺憾の意を示した上で、「政府は日本が近代産業施設に関し、自らがした約束とこの約束が含まれた世界遺産委員会の決定を忠実に履行すべきとの立場」と強調。「今後も委員会で問題提起していく」とした。一方、「過去の歴史の懸案については立場を明確にしながらも、(日本と)互いに信頼の下で未来志向の協力を継続していく」とも表明した。また、共同通信によると、日本政府関係者は「これまで同様、真摯に韓国側へ対応していく」と述べた。
Copyright(C) wowneta.jp