<W解説>韓国・尹錫悦氏が罷免、6月3日に大統領選へ
<W解説>韓国・尹錫悦氏が罷免、6月3日に大統領選へ
韓国の憲法裁判所は今月4日、大統領の職にあったユン・ソギョル(尹錫悦)氏の罷免を決定した。韓国の大統領が罷免されるのは2017年のパク・クネ(朴槿恵)元大統領以来、2人目。尹氏が失職したことを受け、今後、大統領選が行われることになり、韓国メディアによると、政府は投票日を6月3日とすることを決めた。世論調査では、最大野党「共に民主党」のイ・ジェミョン(李在明)代表が大きくリードしている。今後、大統領選戦に向け、与野党共に、支持拡大に向けた動きがより活発化する見通しだ。

尹氏は昨年12月、国内に向けて「非常戒厳」を宣言した。非常戒厳は韓国憲法が定める戒厳令の一種。戦時や事変などの非常事態で、軍事上、必要となる場合や公共の秩序を維持するために大統領が発令するものだ。

非常戒厳は早期に解かれたものの、韓国社会に混乱をきたし、国内政治は不安定となった。「共に民主党」など野党は、尹氏が「憲法秩序の中断を図り、永続的な権力の奪取を企てる内乱未遂を犯した」などとして憲法違反を指摘し、尹氏の弾劾訴追案を国会に提出した。昨年12月、採決が行われ、賛成204票、反対85票で同案は可決した。これを受け、尹氏は職務停止となった。

同案の可決を受け、憲法裁が6か月以内に尹氏を罷免するか、復職させるかを決めることになった。憲法裁では1月から弁論が行われてきた。弾劾審判では、戒厳令の正当性が争点となり、国会訴追団側は、「非常戒厳」の宣言が、憲法77条が規定する「戦時・事変またはこれに準ずる国家非常事態」との要件を満たさず出されたことや、戒厳時に国会へ軍を動員し政治家らを逮捕しようとしたことなどが憲法違反だと主張した。一方、尹氏は審判に自ら出席し、「非常戒厳」の宣言は統治行為だったとして正当性を訴えた。憲法裁は2月25日まで弁論を計11回開き、審理を行ってきた。

憲法裁は今月4日午前、判事8人全員一致により、尹氏の罷免を認める決定を言い渡した。宣告を行った憲法裁のムン・ヒョンベ所長権限代行は「憲法で定める国家の危機的状況ではないのに、尹大統領が違法に戒厳を宣言した」と指摘。その上で「これは、国民の信任に背くもので、容認できない重大な法律違反だった」とした。また、尹氏が戒厳について「野党の暴挙を国民に知らせるための『警告』だった」と主張したことに対しては、「野党との対立は政治的な方法で解決すべきだった」と指摘し、「非常戒厳」の宣言の要件としては認められないとした。

決定を受け、尹氏は弁護団を通じてコメントを発表。「力不足の私を支え、応援して下さった皆様に心より感謝申し上げます。期待に応えられず申し訳ありません」とした上で、「これまで大韓民国のために働くことができて本当に光栄でした。これからも、愛する祖国と国民の皆さまのために祈り続けます」とした。

大統領職を代行しているハン・ドクス首相は4日、国民向けの談話を発表し「憲政史上2人目の現職大統領の弾劾という不幸な状況が発生したことを重く受け止める」とした上で、「大統領権限代行として国家の安保と外交に空白が生じないよう、堅固な安保体制を維持する」と強調した。また、政界と国会に対し、「大韓民国の未来のために力と知恵を集めてほしい」と呼び掛けた。

与野党関係者も受け止めを語った。与党「国民の力」のトップ、クォン・ヨンセ非常対策委員長は「憲法裁判所の決定を重く受け止め、謙虚に受け入れる」との姿勢を示した。最大野党「共に民主党」の李在明代表は「韓国の民主共和制を守りぬいた国民に、心より敬意と感謝を申し上げる」とした上で、尹氏による「非常戒厳」の宣布について「権力と武力で国民と民主主義を脅かした行為だ」と改めて批判した。また、「政治が国民と国家の希望となるよう、最善を尽くしていく」と述べた。

尹氏が失職したことに伴い、韓国では60日以内に大統領選が行われることになり、韓国政府は投票日を6月3日に決めた。公共放送KBSは「各政党の候補者選びは1か月以内に実施される可能性が高くなった」とした上で、「弾劾審判をめぐり、社会の分断が深まり、両陣営の支持層の見極めがつく中、与野党は、中道層の票をいかに取り込むかが焦点になりそうだ」と解説した。次期大統領の有力候補として取り沙汰されているのは「共に民主党」の李代表で、政権交代の可能性がある。ただ、李氏の過激な言動や、李氏が現在、複数の刑事裁判を抱えていることから、今回の大統領選でカギとなる中道層で拒否感を抱く有権者も少なくない。与党では、キム・ムンス雇用労働相や、ハン・ドンフン「国民の力」前代表らの立候補が取り沙汰されている。

ハン首相は4日、ノ・テアク中央選挙管理委員長と電話会談し、「今回の選挙は、単に新しい大統領を選出することに留まらず、大韓民国の未来と国民統合のための重要な契機になるだろう。政府としても積極的に協力し、全ての国民が信頼できる選挙となるよう徹底的に点検し、管理していく」と述べた。
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