尹氏は昨年12月、国内に向けて「非常戒厳」を宣言した。非常戒厳は韓国憲法が定める戒厳令の一種。戦時や事変などの非常事態で、軍事上、必要となる場合や公共の秩序を維持するために大統領が発令するものだ。
非常戒厳は早期に解かれたものの、韓国社会に混乱をきたし、国内政治は不安定となった。「共に民主党」など野党は、尹氏が「憲法秩序の中断を図り、永続的な権力の奪取を企てる内乱未遂を犯した」などとして憲法違反を指摘し、尹氏の弾劾訴追案を国会に提出した。昨年12月、採決が行われ、賛成204票、反対85票で同案は可決した。これを受け、尹氏は職務停止となった。
同案の可決を受け、憲法裁が6か月以内に尹氏を罷免するか、復職させるかを決めることになった。憲法裁では1月から2月25日まで計11回弁論を開いて審理を行ってきた。
憲法裁は今月4日午前、判事8人全員一致により、尹氏の罷免を認める決定を言い渡した。尹氏が失職したため、今後、公職選挙法に基づき、60日以内に大統領選挙が行われることになった。
罷免された尹氏は在任中、日韓関係の改善を進めてきた。両国にまたがる最大の懸案とされた元徴用工訴訟問題は、解決の糸口が見えない状況が続いていたが、尹氏は政権発足後間もない時期に解決策を探るための官民合同の協議会を立ち上げるなど、解決に向けた動きを活発化させた。そして2023年3月、韓国政府はこの問題の「解決策」を発表した。その内容は、元徴用工を支援する韓国政府傘下の「日帝強制動員被害者支援財団」が、大法院(最高裁)で元徴用工らへの賠償を命じられた被告の日本製鉄や三菱重工業に代わって遅延利子を含む賠償金相当額を原告らに支給するというもの。また、係争中の同種の訴訟についても、原告の勝訴が確定すれば同様に対応するとした。解決策を発表した際、尹氏は「これまで政府が被害者の立場を尊重しながら、韓日両国の共同利益と未来発展に符合する方法を模索した結果だ」と強調した。この解決策が示されたことをきっかけに、日韓関係は劇的に改善し、日韓の首脳が互いに行き来する「シャトル外交」も復活。今や、政界のみならず、経済、そして民間同士の交流が活発化している。また、尹氏は日本のみならず、日米韓の連携も深化させた。
今後、韓国では大統領選が行われ、新リーダーが誕生するが、日本政府からは、好転した日韓関係の揺り戻しを懸念する声も上がっている。過去には、2017年のパク・クネ(朴槿恵)大統領(当時)の罷免後、当選したムン・ジェイン大統領(同)が日韓で交わした慰安婦合意を覆し、その後、両国の関係の悪化につながったからだ。次期大統領にふさわしいと思う人物を聞いた世論調査で大きくリードしている最大野党「共に民主党」のイ・ジェミョン(李在明)代表は「対日強硬派」とも言われる人物。産経新聞は「大統領の交代で文政権時代のような反日路線のへの揺り戻しが起きる可能性もある」と伝えた。また、韓国の通信社、聯合ニュースは「特に野党が政権を握った場合、徴用被害者への賠償金支払いを韓国政府傘下の財団が肩代わりする『第三者弁済』方式が再び遡上(そじょう)に載せられる可能性がある」と指摘した。
尹氏が罷免されたことを受け、石破茂首相は4日、衆院内閣委員会で「いかなる政権になっても、日韓の協力は地域の平和と安定に極めて重要だ」と強調した。林芳正官房長官は同日、「日本政府として他国の内政にコメントすることは差し控える」とした上で、韓国について「互いに国際社会の様々な課題にパートナーとして協力すべき重要な隣国だ」と述べ、「日韓関係・日米韓協力の重要性は変わらない」と強調。「引き続き韓国側との間でしっかりと意思疎通する」と述べた。
聯合ニュースによると、韓国・外交部(外務省に相当)は4日、各国の在韓大使館に憲法裁での決定について説明した。また、チョン・ビョンウォン次官補は水嶋光一駐韓大使に電話をかけ、今後も両国関係が発展するよう緊密に意思疎通していく考えを示した。
今後の日韓関係には不透明さもある一方、産経新聞によると、外務省幹部は同紙の取材に「韓国もトランプ米政権の相互関税への対応が最優先で、『反日』をしている余裕はないのではないか」との見方を示した。
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