<W解説>「非常戒厳は平和的な国民へのメッセージ」=初公判で韓国・尹錫悦前大統領が主張したこと
<W解説>「非常戒厳は平和的な国民へのメッセージ」=初公判で韓国・尹錫悦前大統領が主張したこと
昨年12月に「非常戒厳」を宣言し、内乱を首謀した罪で起訴された、韓国のユン・ソギョル(尹錫悦)大統領の初公判が今月14日、ソウル中央地裁で開かれた。尹氏は冒頭陳述で79分間にわたって発言し、「非常戒厳」の宣布は「平和的なメッセージとしての戒厳だった」と主張、起訴内容を否認した。尹氏の弁護士も、起訴内容を全て否認するとし、全面的に争う姿勢を示した。

尹氏が国内に宣言した非常戒厳は韓国憲法が定める戒厳令の一種で、戦時や事変などの非常事態で、軍事上、必要となる場合や公共の秩序を維持するために大統領が発令するものだ。行政や司法の機能は軍が掌握し、言論・出版・結社の自由を制限することも認められる。

1987年の民主化以降初めてとなる非常戒厳の宣言を受け、当時、武装した戒厳軍の兵士がガラスを割って国会議事堂に突入。軍事政権時代を連想させる事態に、国会前には多くの市民が集まり、戒厳に反対するシュプレヒコールを上げたほか、軍の車両を取り囲むなど騒然とした。

だが、戒厳令は国会議員の過半数が解除を求めた場合、大統領はこれに応じなければならず、発令直後、国会で本会議が開かれ、出席議員の全員が解除に賛成。尹氏はわずか6時間で非常戒厳を解いた。

しかし、非常戒厳の宣言による政治的、社会的混乱は大きく、野党は尹氏には内乱の疑いがあるとして告発した。韓国の刑法87条は、国家権力を排除したり、国憲を乱したりする目的で暴動を起こした場合は内乱罪で処罰すると規定する。最高刑は死刑だ。

尹氏は内乱首謀罪で起訴された。起訴状によると、尹被告は昨年12月に戒厳令を宣布後、国会が戒厳令の解除要求決議案を可決するのを防ぐために国会に軍や警察を投入するなど、憲法秩序を乱す目的で暴動を起こしたとしている。

14日、ソウル中央地裁で尹氏の初公判が開かれた。尹氏はこの日、ダークスーツに、赤いネクタイ姿で出廷。入廷時の様子について、韓国メディアのイーデイリーは「淡々とした表情で法廷に入った。髪型は整えられ、固い表情で席に着き、弁護人らと短く話す様子も見られた」と伝えた。

検察側は冒頭陳述で、尹氏は政権発足当初から国会で過半数の議席を握る野党と対立を深め、独自の政策が実現できなくなり、野党を「反国家勢力」と考えるようになったと指摘。国会等の国家機関を機能停止にしようと試みたと述べた。一方、尹氏は「(非常戒厳の発令時間は)数時間で、非暴力的だった。国会の解除要求を直ちに受け入れて解除した。非常戒厳は平和的な国民へのメッセージだった」とし、内乱罪は成立しないと主張した。また、尹氏はかつてチョン・ドゥファン(全斗煥)、ノ・テウ(盧泰愚)元大統領が引き起こした内乱事件について言及。「私も(検事だった)過去に多くの事件を担当し、12・12軍事クーデター(1979年)、5・18クァンジュ(光州)事件(1980年)に関する起訴状や判決文を分析してきた」とした上で、「数時間で非暴力的に国会の戒厳解除要求を直ちに受け入れて解除したことを内乱罪として構成するのは、そのこと自体、法理に合わない」とし、今回、検察が作成した起訴状について「まるで供述書をそのまま起訴状に貼り付けたようなもの」と批判した。

尹氏はこの日、約80分にわたって発言し、途中、裁判長から「話が長すぎる」として注意される場面もあった。しかし、尹氏は主張を続けた。

初公判で尹氏が起訴事実を否認したことに、最大野党「共に民主党」は「法廷まで国民を侮辱する場にした」と批判した。同党のハン・ミンス報道官は14日、書面でコメントし、「尹錫悦大統領の謝罪と反省はやはり無駄な期待だった。尹前大統領は自粛どころか、違憲的不法厳戒で憲政秩序と民主主義を踏みにじっておきながら、処罰を避けようとする行動を取って国民をあざ笑った」と非難した。また、尹政権に批判的な論調を続けてきた韓国紙のハンギョレは15日、「79分間にわたり責任転嫁、知らぬ存ぜぬで一貫」との見出しで初公判について伝えた。

地裁は次回公判を21日に開くことを決めた。その後も、28日、来月8日と毎週続く。ハンギョレは「尹前大統領が現職大統領の特権を失い、職権乱用などで追加起訴され、裁判が増える可能性もある」と伝えた。
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