韓国は、大統領の職にあったユン・ソギョル(尹錫悦)氏が罷免されたことから、6月3日に大統領選が行われることになった。与野党は15日、候補者を選ぶ党内予備選をスタートさせた。「共に民主党」は予備選に李氏、キム・ギョンス元慶尚南道知事、キム・ドンヨン京畿道知事が立候補した。27日まで全国を四つの地域に分けて巡回選挙を実施し、党員の投票(50%)と世論調査(50%)の結果を合わせて公認候補を選出する。
次期大統領の座に最も近いのが李氏だ。李氏は各種世論調査で大統領候補として支持率トップを独走している。世論調査会社の韓国ギャラップが11日に発表した支持率調査で李氏は37%。与党の候補で最も高いキム・ムンス前雇用労働相でも9%にとどまっている上、与党候補の支持率を合計しても李氏に及ばない。このため、李氏の当選は「ほぼ確定」との見方が広がっている。
李氏は南東部キョンサンプクド(慶尚北道)アンドン(安東)郡(現・安東市)出身。貧しい家庭に育ち、小学校卒業後は少年工として働きながら検定考試に合格、中学・高校の卒業資格を得た。1986年に韓国の中央大学を卒業し、弁護士となった。その後、ソウル近郊のキョンギド(京畿道)ソンナム(城南)市長を2007年7月1日~2018年3月15日まで務めた後、2018年7月~昨年10月25日まで京畿道知事を務めた。2022年の大統領選に立候補し、最後まで尹氏と激しい争いを見せたが、約24万票の僅差で敗れた。
また、李氏をめぐっては、ソウル郊外のソンナム(城南)市長だった当時に進めた都市開発に関連し、前回大統領選の候補者だった2021年に虚偽の発言をしたとして、昨年11月の1審で懲役1年、執行猶予2年の有罪判決を受けた。この判決に、李氏側と検察の双方が控訴した。そして、ソウル高裁は先月26日、李氏の公職選挙法上の虚偽事実公表の疑いについて、無罪を言い渡した。公職選挙法違反で有罪が確定すれば、5年間、大統領選を含む公職選挙への出馬ができなくなるところだったが、この無罪判決により、李氏は当面、「司法リスク」から解放された。
李氏は今月10日に動画メッセージを通じて大統領選への出馬を正式に表明した。翌11日には記者会見を開き、政権構想を発表した。文化や科学技術分野などで世界を主導する「K-イニシアチブの新時代を切り開く」などと述べたが、日本に関する発言はなかった。
李氏はこれまで、反日的な言動を繰り返してきた人物として知られる。京畿道知事時代には、京畿道から「親日的なもの」を徹底的に排除する「親日残滓(ざんし)プロジェクト」を推進。城南市長時代の2016年には、前年に日韓で交わした慰安婦問題に関する合意に抗議するため、ソウルの日本大使館前で座り込み運動に参加した。また、尹前政権が発足すると、「親日売国政権」のレッテルを貼り、批判を繰り返した。一昨年8月、日本政府が福島第一原発の処理水の海洋放出に踏み切るや、「汚染水テロ」「第2の太平洋戦争」だとして反日を扇動。自らは抗議のためハンガーストライキを行った。
しかし、その李氏は大統領選をにらみ、最近、反日から軌道修正を図ったとも受け取れる発言を繰り返している。出馬表明した前出の動画では、「現実的に見れば、韓米同盟、韓米日協力は非常に重要だ」と述べた。大統領選を見据え、左派色を嫌う若者や無党派層を意識していることがうかがえる。15日に出演した、故・ノ・ムヒョン(盧武鉉)元大統領の記念財団が運営するユーチューブチャンネルでは、日本との関係について、「過去の歴史問題、独島(竹島の韓国名)問題をめぐる日本の言動には非常に批判的だが、大局的には協力しなければならない」とし、「経済や文化、社会的な側面までそうする(批判的な態度を取る)必要はないのではないか」と述べた。その上で、「韓米関係を尊重し、韓米日の協力関係をしっかり構築しながら、ロシアや中国との関係も管理しなければならない」との考えを示した。
こうした発言に、韓国の公共放送KBSは「『原則を守りつつも、実利を追及する』という実用主義的な外交路線と受け止められている」と伝えた。いよいよ自身が国のリーダーとなることが現実味を増してきた今、世界情勢が混とんとする中で、これまでのような「反日一辺倒」ではやっていけないとの心理が働いた可能性もある。今後、その言動がどうなっていくのか注目される。
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