<W解説>韓国内でサービス中断していた「ディープシーク」再開の見通し=韓国企業にとって脅威との見方も
<W解説>韓国内でサービス中断していた「ディープシーク」再開の見通し=韓国企業にとって脅威との見方も
韓国の個人情報保護委員会は24日、中国の新興企業「ディープシーク(DeepSeek)」が開発した生成AI(人工知能)サービスの検証結果を発表した。ディープシークが開発した生成AIをめぐっては、今年1月に韓国でサービスが始まった際、AI学習用のデータを過度に収集しているとの疑惑が高まり、同委員会は2月、ユーザーデータの取り扱いに関する審査が完了するまで、国内でディープシープのアプリの新規ダウンロードを停止すると発表。同委員会は24日、検証の結果、このサービスが提供されていた当時、国内利用者の個人情報が中国や米国の企業に無断で提供されていたことがわかったと明らかにした。一方、ディープシーク側は同委員会が指摘した問題について、既にほぼ改善を図ったとしている。同委員会のナム・ソク調査調整局長は「ディープシークが、韓国政府の勧告と命令を受け入れ、これを履行すれば、サービス再開が可能になる」と述べており、通信社・聯合ニュースは「近日中に韓国でのサービスが再開されるものとみられる」と伝えた。

ディープシークはChatGPTやGeminiと並ぶ対話型AIサービスとして注目を集めている。ディープシークの最大の特徴は開発や運用コストの低さだ。開発費用は約560万ドル(約8億7000万円)と、米Open AI(オープンエイアイ)のChatGPTの約10分の1にも関わらず、ChatGPTに匹敵する性能があるとされる。また、開発に携わった研究者はわずか約140人で、1000人を超える「Open AI」と比べてもはるかに少ない人数だという。今年1月に最新の言語モデル「R1」がリリースされるや、Apple(アップル)のApp Store(アップストア)の無料アプリでダウンロード数トップに。無名だった中国の新興企業のAIが、低コストにも関わらず米AI先端製品に匹敵する性能を持つことは、世界に衝撃を与えた。

一方、中国は国家情報法により、中国企業や国民に情報活動への協力が義務付けられており、ディープシークのサービスが開始されるや、このサービスを利用すれば中国側に情報が抜き取られるのではとの懸念が高まった。

こうした懸念から、各国の企業や政府機関は利用制限などの措置を取った。韓国でも、外交部(部は省に相当)や産業通商資源部などの省庁が独自の判断によりディープシークへのアクセスを遮断した。こうした対応は企業にも広がり、IT大手のカカオや通信大手のLGユープラスなどは業務目的でのディープシークの使用を禁止した。個人情報保護委員会はディープシークに対し、問題が是正されるまでサービスを暫定的に中断して改善・補完することを勧告。ディープシークはこれを受け入れる形で2月中旬から韓国国内での新規ダウンロードを停止した。

同委員会はサービス停止中、ディープシークの個人情報処理の実態を検証し、今月24日、その結果を発表。韓国内でのダウンロードが可能だった期間中、ユーザーの個人情報を中国や米国のクラウドサービス上のプラットフォームに無断で転送していたことが明らかになったとした。無断で送信されていた情報には、ユーザーのデバイス情報やネットワーク環境、AIへの指示・質問(プロンプト)などが含まれていた。このうち、中国初の動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の親会社「バイトダンス」の系列会社ボルケーノには、利用者がAIプロンプトに入力した内容がそのまま渡っていたことが確認されたという。聯合ニュースは「韓国におけるディープシークAIの利用者数は1日平均約5万人だったとされており、サービスが提供されていた約1か月でおよそ150万人の個人情報が海外に流出したと推定される」と伝えている。

同委員会は、ディープシークに対し、ボルケーノに提供した利用者のプロンプトの内容を直ちに破棄するよう是正勧告した。一方、ディープシーク側は、同委員会が勧告した措置を全て遵守する意向を既に示しており、利用者が入力した情報がAI学習に使用されないよう拒否できる機能「オプトアウト」の機能を導入するなど、サービスに対し、既にさまざまな改善を講じている。同委員会も、指摘された事項はほぼ改善されたと認識しており、近く、韓国でサービスが改善されるものとみられる。

こうした動きに、韓国紙のソウル経済は「OpenAIやGoogle(グーグル)など、米国のビッグテックが韓国市場の攻略に乗り出している中、コストパフォーマンスが良いディープシークがサービスを再開することになれば、韓国企業にとって脅威になるとの見方が出ている」と伝えた。低コスト・高効率のAIモデルを武器にしたディープシークの登場を受け、韓国のAI業界はAI技術力を高め、自国独自の「韓国版ディープシーク」の開発を急いでいる。このうち、ネイバーは自社開発した生成型AI「ハイパークローバーX」の軽量モデル3種を無料で公開した。「韓国語関連の理解能力では、OpenAIやディープシークよりも性能が優れている」とPRしている。今月23日に開かれたネイバークラウドテックサミットで、ネイバークラウドのキム・ユウォン代表は「AIが社会基盤になっている時代に、我々は必ず自立型AIを確保しなければならない」と強調した。
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