元徴用工訴訟をめぐっては、大法院が2018年10月、雇用主だった三菱重工業と日本製鉄(旧新日鉄住金)に賠償を命じた。しかし、日本は戦時中の賠償問題に関しては1965年の日韓請求権協定で解決済みとの立場で、これを理由に被告の2社は履行を拒んだ。このため、原告側は、日本企業が韓国内に持つ資産を売却して賠償に充てる「現金化」の手続きを進めた。
元徴用工訴訟問題は日韓最大の懸案として、解決の糸口が見えずに月日だけが過ぎることとなったが、2022年5月、韓国でユン・ソギョル(尹錫悦)政権が発足したことを機に風向きが変わった。尹大統領(当時)は大統領選候補者時から日韓関係改善に意欲を見せ、元徴用工訴訟問題に関しては、政権発足後間もない時期に解決策を探るための官民合同の協議会を立ち上げるなど、解決に向けた動きを活発化させた。
そして2023年3月、韓国政府はこの問題の「解決策」を発表した。その内容は、元徴用工を支援する韓国政府傘下の「日帝強制動員被害者支援財団」が、元徴用工らへの賠償を命じられた被告の日本製鉄や三菱重工業に代わって遅延利子を含む賠償金相当額を原告らに支給するというもの。また、係争中の同種の訴訟についても、原告の勝訴が確定すれば同様に対応するとした。
韓国政府が解決策を発表した際、尹氏は解決策について「これまで政府が被害者の立場を尊重しながら、韓日両国の共同利益と未来発展に符合する方法を模索した結果だ」と強調した。
勝訴した15人のうち、遺族や存命の11人は解決策の提示から間もなく受け入れの意思を示し、1人当たり2~3億ウォン(約2200~3200万円)の判決金と遅延利息が支給された。だが、イ・チュンシクさんら数人は受け取りを拒否したと伝えられた。しかし、財団は昨年10月、イさん側が受け入れに転じたことを明らかにし、賠償金と遅延利子に相当する額が支払われた。これにより、2018年に判決が確定した原告15人のうち、生存者(当時)は全員が解決金を受け取ったと伝えられた、一方、この時、イさんは認知症を患っており、イさんの長男は当時、記者会見を開き、自身は父親が政府の解決策を受け入れたことを知らないとし、父親は正常な意思を示すことができる状態ではなく、解決金を受け取る意思を確認できないと指摘した。長男は解決金の受領手続きを行ったきょうだい2人を警察に告発した。
韓国警察は先月30日、私文書偽造などの容疑でこの2人を書類送検した。警察は、2人が解決金を受け取る目的でイさんにペンを握らせ、イさんの意思に反して解決策を受け入れる書類に署名させたとみている。韓国紙の中央日報が警察関係者の話として伝えたところによると、1人は容疑を認め、もう1人は否認しているという。
イさんは今年1月、老衰のため101歳で死去した。財団は、元徴用工訴訟で勝訴が確定した原告への賠償金相当額の支給を進めており、これまで原告計67人のうち、26人が韓国政府がまとめた解決策に同意し、賠償金相当額を受け取っている。本人の意思に反する形で第三者が文書を偽造して、受け取りの手続きを進めることは論外だが、元徴用工訴訟の原告が高齢となる中、家族らが本人の意向を確認することは困難になってきている。
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