岡山芸術交流2022とは?
3年に1度岡山で開催される国際現代美術展「岡山芸術交流」。3回目となる今年2022年は、アーティスティックディレクターのリクリット・ティラヴァーニャ氏によって選定された作家が、13か国から28組参加。空っぽのプールに横たわる超巨大なクマの彫刻から、美術館の天井から吊り下がる鈴で編んだ長いロープまで。岡山の街に溶け込む数々の作品の中から、筆者が特に気になった作品をご紹介します!
メイン会場は旧内山下小学校の校舎や校庭
何といっても「岡山芸術交流」の一番大きな特徴は、展示会場が岡山市内の市電「城下(しろした)」駅周辺エリアに点在しているため、地図を片手に街歩きをしながら、1日あれば大半の作品を見て回ることができるということ。
メイン会場となるのは、16組の作家が展示を行う旧内山下(きゅううちさんげ)小学校です。
25メートルプールに足を踏み入れると、ピンクのリボンを頭に巻いて白いパンツを履いた巨大なクマが、あおむけに横たわっているのが目に飛び込んできました。
こちらの作品タイトルは《太陽が私に気づくまで私の小さな尻尾に触れている》。「わ~! 可愛い」と一言では言い表せない不穏さもそこはかとなく漂いますが、作者のプレシャス・オコヨモン氏は「大人でも自由に触って作品を感じて欲しい」と笑顔で語ります。
プールサイドの奥にズラリと並んでいたのは、ニューヨークを拠点とする大丸隆平氏が手掛けるファッションブランド「OVERCOAT(オーバーコート)」と、ティラヴァーニャ氏がコラボレーションした作品「COME TOGETHER」です。
衣料廃棄物と商業建築のひさしなどに使われる布地を組み合わせてリメイクされた、カラフルでファッショナブルな作品でありながら、日々大量に廃棄される服に対する問題提起でもあるのが伝わってきました。
戦前からある小学校の校舎を活かした現代アートの展示の数々
校舎内には、戦前からあるという古い建物をそのまま活かした展示方法が、作品の現代性をより引き立たせているようで、時代も国も超えた不思議な感覚に襲われました。電飾に彩られたほの暗い妖しげな「音楽室」に吸い込まれるように足を踏み入れると……?
待ち受けていたのは、2020年に木村伊兵衛写真賞を受賞した気鋭の作家・片山真理氏による、自身の身体を模した手縫いのオブジェをまとって撮影されたセルフポートレートを中心とした「possession」シリーズです。妖しげなのに妙に落ち着くその空間にしばらく佇み、目の前に広がる作品世界に思いを馳せました。
廊下を進むと、さらに不気味な気配を漂わせる教室が出現。メキシコ出身のアーティスト、バルバラ・サンチェス・カネ氏による《悪臭の詩》と名付けられた作品なのですが……。
まるで授業中のように見えたその光景は、皮でできた人型の作品。
蝉の抜け殻ならぬ、「人の抜け殻」が授業を受けているかのよう。
皮だけで本体がないのに異様な存在感があってギョッとしますが、《悪臭の詩》というタイトルとは真逆の造形の美しさに目が釘づけに。
その他にも、タイ人のアーティスト、アピチャッポン・ウィーラセタクン氏によるインスタレーション《静寂という言葉は静寂ではない》や、母親が内山下小学校の卒業生だという島袋道浩氏が、岡山後楽園で幼い頃に遊んだ白鳥のボートが昔と変わらずにそこにあることを不憫に思い、その白鳥ボートを漕いで海に連れ出す過程を記録した映像作品《白鳥、海へゆく》(2012、2014)など、興味深い作品がそれぞれの教室ごとに展示されていて、旧小学校という場所の記憶がその作品にも影響を及ぼしているであろうことが、肌で感じられました。
体育館には巨大な滑り台と大理石のステージも
校内の奥に位置する体育館には巨大な滑り台型の彫刻が鎮座していて、何やら音楽も聴こえてきます。
こちらは、曽根裕氏による巨大な作品《アミューズメント・ロマーナ》。実際に作品を滑ることもできる参加型の作品です。
奥から聴こえていたのは、ティラバーニャ氏の大理石を用いた作品《無題2017 (オイル ドラム ステージ)》の上で奏でられていたバンド演奏でした。地元の老舗ライブハウス・ペパーランドのプロデュースのもと、会期中150組の出演者がパフォーマンスを行う予定なのだそう。
なお、こちらの会場には展覧会のチケットのほか、Tシャツやエコバッグ、コンセプトブックなど、オリジナルグッズの販売も。
オリエント美術館には鈴で編まれた金のロープが出現
徒歩7~8分の距離にある岡山市立オリエント美術館では、古代オリエントの美術品が並ぶ展示室のなかに、現代アーティストたちの作品が見事にマッチしていました。なかでも一番目を引いたのは、吹き抜けに吊るされたソウル出身の梁慧圭(ヤン・へギュ)氏による作品《ソニック コズミック ロープー金色12角形直線織》です。
これ、下の部分はどうなっているかというと…?
こんな感じで、床スレスレまで伸びているんです。
内覧会では、作家の梁氏みずから無数の金の鈴で編まれたロープを抱きかかえて、振り子のように左右に大きく揺らすパフォーマンスも行われ、その荘厳さに心を奪われました。
岡山神社や岡山城など歴史ある場所と現代アーティストのコラボも
美術館から徒歩数分の岡山神社の境内にも、先程の梁氏によるペーパーカッティングの作品や、カリフォルニア出身のマイリン・レイ氏が日本のダンサーとコラボレーションした映像なども展示されていました。
さらに「岡山県天神山文化プラザ」には、ティラヴァーニャ氏のキュレーションによる「インデックス展」や、地元の高校の書道部の生徒と共作したという、アブラハム・クルズヴィエイガス氏による《無題の書道コンテンスト》などが一堂に会していて、本展の多様性を感じます。
岡山市のシンボルである岡山城天守閣は現在改装工事中で2022年11月3日リニューアルオープン予定ですが、一部エリアは通行可能です。
「中の段」には、電子音楽の作曲家・アーティストとして国際的に活動する池田亮司氏のデジタル作品が展示されていて(16時~21時)、ノイズ音やサウンドが岡山城周辺の敷地内に響き渡り、異なる時代の世界観の融合を感じることができます。
上記会場のほか、林原美術館や石山公園、岡山後楽園(観騎亭)、市内のミニシアターであるシネマ・クレール丸の内や岡山天満屋(表町商店街側ショーウィンドウ)などでも、参加作家の作品を鑑賞することが可能です。なかには過去の出品作品が継続展示されているものもあり、思わぬ場所でアートに遭遇するなんてこともたくさんあります。
世界各国からの“旅人”同士の芸術を介した交流こそがアート
アーティスティックディレクターのティラヴァーニャ氏(上・中央)は、1990年代から注目を集め、世界の現代アートを牽引する偉大な作家の一人。パッタイやカレーといったタイ料理をギャラリーなどで鑑賞者に振る舞い、そこで生まれるコミュニケーションや空間自体を作品として提示する活動もおこなっています。
本展でも地元岡山の「キッチン かいぞく」とのコラボによるキッチンカーで、伊勢﨑州氏による備前焼の器とスミス 一三省吾氏、木口 ディアンドレ氏による烏城彫が施された丸みのある木の蓋が彩る「えびめしとタイマッサマンのコラボレーション キッチンかいぞくとリクリット・ティラバーニャのレシピ」(1300円)を販売中。
筆者は、展覧会初日の9月30日に岡山県立美術館のホールにて開催されたアーティストトークも観覧したのですが、参加アーティストそれぞれが自身の作品についての紹介や解説を行ったあと、思わぬハプニングが。
登壇アーティストの一人が自らの想いを語る途中、感極まり涙ぐむ場面があったのですが、なんとそれを受けて他のアーティストにも次々連鎖して、最終的にはティラバーニャ氏までもが「こんなに素晴らしいアーティストを迎えることができて感謝しています」と涙ながらに語っていました。
現実世界で起きている人種間の争いに、それぞれが怒り、心を痛めている。でもそんななか日本の岡山の地で、世界中から集まった「旅人」であるアーティストたちが、鑑賞者と共に同じ空の下で言葉や視線を交わし合うことが、いかに貴重で価値のあることか。「岡山芸術交流2022」の開催意義を垣間見た瞬間でした。
「岡山芸術交流2022」は11月27日まで開催中。休館日や開館時間は施設によって異なるため、詳しくは公式HPでご確認の上で会場に足を運んでみてはいかがでしょうか?
「岡山芸術交流2022」
会期:2022年9月30日(金)~2022年11月27日(日)
開館時間:9:00~17:00(最終入場は16:30まで)
休館日:月曜日
会場:旧内山下小学校、岡山県天神山文化プラザ、岡山市立オリエント美術館、シネマ・クレール丸の内、林原美術館、岡山後楽園、岡山神社、石山公園、岡山城、岡山天満屋
入場料:一般 1800円、大学生・専門学生 1000円、65歳以上 1300円、高校生以下無料ほか
公式HP:https://www.okayamaartsummit.jp/2022/
[all photos by Reico WATANABE]