<W解説>政権からの圧力?韓国大統領夫人の疑惑捜査が本格化する中で行われた検察官の人事異動
<W解説>政権からの圧力?韓国大統領夫人の疑惑捜査が本格化する中で行われた検察官の人事異動
韓国のユン・ソギョル(尹錫悦)大統領の妻、キム・ゴンヒ(金建希)氏の株価不正操作疑惑や高級ブランドバッグを受け取ったとされる疑惑をめぐり、ソウル中央地検が本格的な捜査に着手した中、同地検の捜査担当幹部らが今月15日までに一斉に異動となる異例の事態となっている。韓国の公共放送KBSは「今回の人事をめぐっては、金建希夫人をめぐる捜査がいよいよ本格化していることを受け、大統領側がこれに対応したものではないかとの見方が出ている」と伝えている。

 金氏といえば、尹氏の2022年5月の大統領就任前から、これまで様々な面で注目を浴びてきた。2021年、尹氏が大統領選への出馬を表明し選挙活動に奔走する中、金氏に経歴詐称疑惑が浮上。金氏が2006年に女子大学の教授採用に志願した際、提出した志願書に虚偽の経歴と虚偽の受賞記録が記載されていたと報じられた。その後、次々と経歴詐称が明るみとなった。競争社会の韓国では、有力者やその家族の経歴に対し世論は厳しく、当時、夫の尹氏が「公正」を掲げて大統領選を戦っていたこともあり、金氏は思わぬ形で注目を浴び、厳しい批判にさらされた。金氏はその後、会見を行い、「良く見せようと膨らませ、間違って書いたものもある」と事実を一部認めた上で、「あまりに恥ずかしいことだった」などと謝罪したが、会見では尹氏との出会いなどまで赤裸々に語り、かえってその純粋無垢な姿が有権者から好感を得た側面もあった。

 夫が選挙に勝利し、金氏は大統領夫人となったが、かつての批判の対象から一転、「美しきファーストレディ」として人気が高まった。当初、内助に尽くすとしていた金氏だったが、妻として多忙な尹氏を支えるのみならず、外遊に同行してファーストレディとしての役割を果たしてきた。昨年3月、尹氏が来日し、岸田文雄首相と日韓首脳会談を行った際には、同行した金氏の活動にも関心が集まった。金氏は滞在中、日本民藝館を訪れたほか、東京韓国学校への訪問、建築家の安藤忠雄氏との懇談と、精力的に日程をこなした。金氏はデザイン学の博士の学位を持つなど、この分野のエキスパートとしての顔も持ち、かつて美術展を企画・運営する会社の代表を務めていた。安藤氏とも以前から交流があった。

 その金氏をめぐっては、2022年9月に、在米韓国人の牧師から高級ブランドバッグを受け取ったとされる疑惑がある。韓国では公務員やその配偶者が職務と関連して一定額以上の金品を受け取ることを禁じる「不正請託防止法」があり、同法違反の疑いが指摘されている。昨年11月、尹政権に批判的なユーチューブチャンネルで、その一部始終を収めたとする動画が公開された。また、輸入車ディーラーの株価操作事件に関与した疑惑もある。韓国国会は昨年12月、金氏の疑惑の捜査を政府から独立して活動する特別検察官が行うとする「特別検事法」法案を可決した。しかし、尹氏はこの法案に対する拒否権を行使。法案を再び可決させるためには在籍議員の過半数の議席と出席議員の3分の2以上の賛成が必要だが、野党は次期国会で再び発議し、再可決に持ち込もうとしている。

 一方、尹氏は就任から2年を迎えるのを前に今月9日に開いた記者会見で夫人の疑惑に言及。「私の妻の賢明でない行動で国民に心配をかけた部分について謝罪する」と述べた。こうした中、ソウル中央地検は今月に入り、金氏が高級ブランドバッグを受け取ったとされる疑惑について、捜査チームを立ち上げて捜査に本格着手した。13日にはバッグを金氏に渡したとされる牧師に出頭を求め、取り調べを行った。

 今後の捜査の行方が注目される中、法務部(部は省に相当)は13日、ソウル中央地検で金氏をめぐる疑惑の捜査に当たってきた幹部らの異動を発表した。捜査の実務を担当していた幹部級検察官が全員異動する異例の事態となっている。同地検の新しいトップには尹大統領寄りとされる人物が任命された。捜査が本格化し始めた矢先の今回の人事に、韓国メディアは政権側からの圧力があった可能性を指摘している。今後、この疑惑の捜査の第一線で職務に当たっている担当検事らも異動となる見通し。韓国紙のハンギョレは「法務部は、早ければ来週にも大規模な検察の中間幹部人事を発表するとみられる」と伝えた。

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