北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)総書記は今年1月、国会に相当する最高人民会議での演説で、韓国を「第1の敵対国」と明記するよう、憲法の改正を指示。南北間の道路などを「物理的に完全に切断」することも命じていた。南北関係が、偶発的な武力衝突が懸念されるほどに悪化する中、北朝鮮の朝鮮人民軍総参謀部は今月9日、朝鮮中央通信を通じ、韓国とつながる道路と鉄道を「遮断する」と表明。「わが軍隊が第1の敵対国、不変の主敵である大韓民国と接した南側の国境を永久に遮断、封鎖することは、戦争抑止と共和国(北朝鮮)の安全を守るための自衛的措置」と主張した。北朝鮮の表明を受け、韓国軍は関連する北の動きを注視していた。また、韓国軍制服組トップのキム・ミョンス合同参謀本部議長は10日、北朝鮮側が韓国につながる陸路を遮断しようとしている意図について、「内部人員の外部流出を防ぐためのものではないか」との見方を示した。韓国軍は14日、北朝鮮が南北連結道路を爆破するためとみられる活動を行っていると明らかにした。そして、翌15日正午ごろ、北朝鮮は先の表明通り、南北連結道路の爆破という暴挙に出た。
爆破されたのは韓国とつながる鉄道「キョンウィ(京義)線」と「東海線」に並行する道路。韓国軍が公開した映像からは、黒い柵が設置された道路上で爆発と煙が上がる様子が確認できる。その後の映像には、爆破した道路の近くにショベルカーやトラックなどが入っていく様子が映っている。韓国軍によると、北朝鮮軍は爆破後も追加の作業を続けているという。
鉄道の京義線と東海線は南北分断により断絶したが、2000年に行われた当時のキム・デジュン(金大中)韓国大統領と北朝鮮のキム・ジョンイル(金正日)総書記による南北首脳会談で、並行する道路も含めて連結することで合意。2002年9月に着工式が行われて以降、南北協力事業として整備が進められた。その後、南北関係が冷え込んだ時期を経て、2018年にムン・ジェイン(文在寅)韓国大統領(当時)と金正恩総書記が鉄道と道路の連結・近代化に合意。再び着工式が行われた。南北協力事業が再度動き出すかと期待されたが、実質的な進展はなかった。
韓国の聯合ニュースが伝えたところによると、京義線と東海線の鉄道と道路の連結事業は韓国政府からの借款として進められ、2002~08年にかけて約1億3290万ドル(約198億2400万円)が投じられたという。聯合は、15日の爆破により、この韓国側資金が「無駄になった」と指摘した。
爆破を受け、韓国統一部(部は省に相当)は同日、声明を発表。「南北合意への明白な違反であり、極めて異常な措置」と非難した。さらに、「4年前、南北の合意により1年以上運営していた南北共同連絡事務所を一方的に爆破した行動を改めて見せたもの」とし、「退行的な行動を繰り返す北が嘆かわしい限りだ」と批判した。
南北共同連絡事務所は、2020年に北朝鮮が一方的に爆破した。同事務所も南北連結道路と同様、南北融和の象徴とされた。当時、北朝鮮の体制を批判するビラが、脱北者団体によってまかれたことに北朝鮮が強く反発。金正恩総書記の妹のキム・ヨジョン(金与正)氏が「偉大なる尊厳を傷つけた重大さを間もなく知ることになるだろう」などとする談話を発表し、その3日後に事務所が爆破された。
北朝鮮は今月11日、韓国が北朝鮮の首都・ピョンヤン(平壌)の上空に無人機を侵入させビラを散布したと主張。韓国軍はこれを否定しているが、与正氏は「無人機が再び発見された瞬間、大変な惨事が起きる」とする談話を出した。2020年に南北共同連絡事務所が爆破される前の状況と重なり、不安が高まる。一方、韓国国防部は13日、「国民の安全に危害を加えれば、その日に北の政権が終焉(しゅうえん)を迎えることを警告する」との声明を発表した。
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