<W解説>韓国、ユン・ソギョル前大統領の罷免を宣告した憲法裁所長代行の庶民性が話題
<W解説>韓国、ユン・ソギョル前大統領の罷免を宣告した憲法裁所長代行の庶民性が話題
韓国の憲法裁判所は今月4日、大統領の職にあったユン・ソギョル(尹錫悦)氏の罷免を決定した。この日、法廷で決定理由、主文を述べたのは、ムン・ヒョンベ所長権限代行だった。ネット上では、「ムン・ヒョンベ憲法裁判官の財産が少ない理由」と題した投稿文とともに、長年、裁判官を務めてきたムン氏が庶民的であることがうかがえる映像が投稿され、公職者としての生きざまに、注目が集まっている。ムン氏は今月18日に退任する。

憲法裁は、判事8人全員一致により、尹氏の罷免を認める決定を言い渡した。法廷で、ムン氏は主文の言い渡しを前に、決定理由から読み始めた。ムン氏は「憲法で定める国家の危機的状況ではないのに、尹大統領が違法に戒厳を宣言した」と指摘。その上で「これは、国民の信任に背くもので、容認できない重大な法律違反だった」とした。また、尹氏が戒厳について「野党の暴挙を国民に知らせるための『警告』だった」と主張したことに対しては、「野党との対立は政治的な方法で解決すべきだった」と指摘し、「非常戒厳」の宣言の要件としては認められないとした。

その上で、ムン氏は「裁判官全員の一致した意見で主文を宣告します。弾劾事件ですので、宣告の時刻を確認します。今の時刻は午前11時22分です。主文、被請求人大統領・尹錫悦を罷免する」。法廷の様子はテレビで生中継され、韓国中がその瞬間を見守った。

尹氏は失職し、今後、韓国では60日以内に大統領選挙が行われることになった。投開票日は6月3日に行われることが決まった。

今回の憲法裁の判断に、「韓国の民主主義の勝利だ」などと評価する声が上がっており、世論調査会社「リアルメーター」が行った調査では、判断を「受け入れる」と答えた国民が7割を超えていることがわかった。海外メディアも「国民の抵抗、そして国会の弾劾決定に続き、司法もまた、民主化以降初となる戒厳令の試みを拒否する意思を明確にした」(米紙・ワシントンポスト)などと報じている。

こうした中、法廷で決定理由、主文を述べたムン氏が庶民的だとして注目を集めている。ネット上では「ムン・ヒョンベ憲法裁判官の財産が少ない理由」と題した文章とともに、2019年4月、憲法裁の裁判官候補だったムン氏に対する国会法制司法委員会の人事聴聞会の様子が記録された動画が投稿された。当時の人事聴聞会で、国会議員はムン氏に対し「憲法裁の裁判官の財産が平均20億ウォン(現レートで約1億9000万円)ほどなのに、候補者(ムン氏)の財産は6億7545万ウォンだ。27年間裁判官生活をしてきたのに、あまりにも少ないのではないか」と指摘。これに対し、ムン氏は「結婚する時に誓ったことがある。平均的な人の暮らしから外れてはいけないと」と説明した。また、公職者として最も重要な資質として「謙虚さ」を上げ、「公職生活が終わっても営利のための弁護士活動はしない」と話した。

この映像はネットユーザーの関心を集め、7日午前10時の時点で再生回数は70万回を超えた。映像を見たユーザーからは「立派なマインド」「清廉さを尊敬する」などといったコメントが上がっている。

ムン氏はソウル大学法学部を卒業後、1986年の司法試験に合格。92年にプサン地方裁判所判事に任官された。2016年から約2年間、同地裁所長を務めた後、国会の人事聴聞会を経て、19年に憲法裁判事に任命された。昨年、憲法裁所長権限代行となり、ユン氏の弾劾裁判では主審を務めた。

一方、審判中は、ユン氏の支持者団体が自宅前にやってきて集会が開かれたり、ネット上で殺害予告されたりするなど、平穏な生活が脅かされたこともあった。

そのムン氏は今月18日に退任する。韓国警察は退任後もムン氏の身辺保護を継続するという。
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