<W解説>韓国大統領選を控えたこの時期に文在寅元大統領が在宅起訴されたのは偶然?
<W解説>韓国大統領選を控えたこの時期に文在寅元大統領が在宅起訴されたのは偶然?
韓国の検察は今月24日、ムン・ジェイン(文在寅)元大統領を収賄罪で在宅起訴した。検察によると、文氏は大統領在任中の2018~20年、当時与党だった最大野党「共に民主党」の元国会議員が経営する航空会社に、娘の元夫を役員として不正に採用させ、給与や住居費を提供させたとされる。絶対的権力を持つ韓国大統領は、在任中の行動が問題視されるケースが多い。存命中の大統領のうち、イ・ミョンバク(李博博)元大統領と後任のパク・クネ(朴槿恵)元大統領はいずれも収賄などの罪で実刑が確定し服役した。ユン・ソギョル(尹錫悦)前大統領も現在、内乱罪で起訴され、公判中だ。文氏も歴代の大統領たちと同じ道をたどることになるのだろうか。しかし、当の文氏は「荒唐無稽な起訴だ」と怒りをあらわにし、検察を刑事告訴する考えを示した。

文氏をめぐっては、大統領在任中、韓国のLCC・イースター航空の創業者で、当時与党だった「共に民主党」の元国会議員のイ・サンジク氏を政府系機関の理事長に就任させるなどした見返りに、文氏の娘の元夫を、李氏が所有するタイの航空会社に役員として入社させた疑いがもたれている。元夫は航空業界での勤務経験がなかったのにも関わらず、常務として採用された一方、入社後の業務は電子メールの送受信などの補助的なもののみだったとされる。しかし、会社は元夫に給与や移住費計2億1700万ウォン(約2100万円)を支払っており、通信社・聯合ニュースは「文政権で李氏が政府系機関・中小ベンチャー企業振興公団の理事長に就任した後に元夫の採用が行われており、(会社から元夫に支払われた給与や住居費には)賄賂性があると(検察は)判断したようだ」と伝えた。

文氏は特定犯罪加重処罰法違反(収賄)罪で在宅起訴されたが、これを受け、コメントを発表。「でたらめで荒唐無稽な起訴」と反発し、「法廷で真実を明らかにするだけでなく、検察権がどれほど安易に行使され、乱用されているかを明らかにするきっかけにしたい」とした。

韓国では、尹前大統領が罷免されたことを受け、6月3日に大統領選が行われる。世論調査では次期大統領にふさわしい人物として、文氏が所属する「共に民主党」のイ・ジェミョン(李在明)前代表が支持率トップを独走。政権交代の可能性が高まっているが、こうした時期に検察が文氏を在宅起訴したことに野党は「明白な政治報復だ」と怒りをあらわにしている。文氏は2022年の大統領退任後も野党内に支持者が多く、今回の大統領選には文氏の最側近の一人、キム・ギョンス前キョンサンナムド(慶尚南道)知事も「共に民主党」の予備選に立候補している。文氏が在宅起訴されたことを受け、同党の李前代表は、陣営の報道官を通じ、コメントを発表。「検察は社会秩序維持の最後の砦(とりで)でなければならない。権力を乱用する政治検察の時代を終わらせなければならない」と訴えた。

韓国では政権が変わるや、前政権の不正に対する捜査が強化される「政治報復」が繰り返されてきた。文氏の前任大統領の朴槿恵氏、その前の李明博氏はいずれも実刑判決を受け服役。さらにその前任のノ・ムヒョン(盧武鉉)氏は検察の聴取後に自殺した。疑惑がささやかれながらもこれまで無傷だった文氏も法の裁きをうけることになった。

韓国の検察は、政治的に偏向しているとしばしば指摘される。文氏の在宅起訴をめぐっても、これに関連し不可解な点がある。文氏を起訴したのはチョンジュ(全州)地検だが、捜査の総責任者のパク・ヨンジン地検長は尹錫悦政権による検察人事で昇進し、地検長に就任する前までは、要職である大検察庁の犯罪情報企画官を務めていた人物だ。韓国メディアはパク地検長について、「親・尹錫悦」系の検事の一人と指摘している。尹氏は昨年12月に国内に「非常戒厳」を宣言し、これを受け野党は尹氏を弾劾訴追した。今月4日、憲法裁判所は尹氏を罷免する決定を言い渡し、尹氏は失職した。在宅起訴された文氏は、自身の起訴は「尹前大統領の弾劾に対する報復」との見解を示している。

果たして、何らかの見えない力が働いているのだろうか。しかし、検察は市民団体の告発を受け、2021年から捜査を続けてきた。全州地検側は在宅起訴に踏み切った理由について「(文氏は)2度にわたる出頭要請に応じなかった。文元大統領は書面調査を求めたため質問書を送付したが、それに対する回答書も提出しなかった」と説明した。
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