<W解説>復学宣言の韓国・医学部生に特別措置=過度な恩恵と批判も
<W解説>復学宣言の韓国・医学部生に特別措置=過度な恩恵と批判も
韓国政府による、大学医学部の定員拡大の方針に反発し、集団で休学を続けてきた学生たちが今月、授業に戻ることを宣言した中、政府は特別措置として本来はできない2学期からの復学を認めることを決めた。また、それに伴い、卒業時期が8月になる学生のために、毎年1月に実施している医師国家試験を追加で行うことも検討されている。こうした特別待遇に、通信社の聯合ニュースは「授業をボイコットした学生らに対する過度な恩恵との批判も出ている」と伝えた。

韓国では、特に地方において医師不足が深刻となっている。医師不足を解消しようと、昨年2月、当時のユン・ソギョル(尹錫悦)政権は医学部の入学定員を2025年度から5年間にわたって毎年度2000人増やすと発表した。

しかし、医療界はこの方針に反発した。医師の全体数は足りており、医師不足とされる原因は外科や産婦人科など、いわゆる「必須診療科」の医師が足りないことにあると指摘。政府の方針が示されるや、医療界は研修医が集団辞職するなどして抗議の意思を示した。これにより、医療現場では通常の診察や手術に遅れが生じるなど混乱に陥った。

しかし、教育部(部は省に相当)は昨年、大学医学部の2025年度の募集人員について、全国39の医学部で前年比1497人増の計4610人とすることを確定した。当初の計画より増員幅を圧縮したが、1998年以来となる定員増を決めた。

政府の医学部定員増の方針に、研修医が集団で離職して抗議の意思を示したほか、医学部生たちの多くも反発し、休学して授業をボイコットした。3月に25年度前期の講義が始まったものの、当初、各大学の医学部は学生たちが休学した状況が続いた。政府は3月、医学部生たちの学業復帰を条件に、来年度の医学部の募集人数を増員以前の水準に戻す方針を明らかにした。これに先立ち、医学部がある40の大学の学長で組織する「医科大学先進化のための総長協議会(医総協)」などは、政府が定員を増員前の人数に戻すならば、大学として学生を必ず復学させるとの趣旨の文書を教育部に提出した。

これを受け、学生たちはほぼ全員が復学申請をした。しかし、実際に授業に出ている学生の割合はわずかにとどまった。医師国家試験の受験を拒否する動きもみられた。

4月、政府は26年度の医学部の募集人員は定員増前の3058人に戻すと正式に発表した。しかし、2027年度以降の定員については今後、慎重に検討していく方針を示した。

今月12日、医学生団体「大韓医科大学・医学専門大学院学生協会」は、大韓医師会などとともに共同声明を発表し、全学生が授業に戻ることを宣言した。これに、韓国紙は「1年5か月間続いた医学界と政府の対立が収束し、医療正常化の契機となることが期待される」(東亜日報)などと伝えた一方、「学事正常化までには解決すべき多くの課題が残されている」(ハンギョレ)とも指摘した。

今年度1学期の授業を履修しなかった医学部生は約8000人いるが、医学部の多くは「学年制」で運営されており、1学期に必要な単位を取得しなかった場合、通常、2学期の授業は履修できない。学生協会が授業復帰を宣言した中、学生たちの復帰時期をいつにするのかが懸案となっていた。

医総協は学生協会と協議。学則を「学年制」から「学期制」に変え、留年対象の学生が2学期から復帰できるようにする方針を決め、政府に伝達した。教育部(部は省に相当)は25日、これを尊重すると発表した。さらに医総協は、2学期からの復学に伴い、卒業時期が8月になる学生のために、毎年1月に実施している医師国家試験の追加実施も求めており、政府は「検討する」とした。

こうした方針は昨年2月から続く医学部定員問題をめぐる混乱を解消し、正常化を図るためのものだが、謝罪や反省もなく復学しようとしている学生たちに特別措置を講じることには批判の声も上がっている。聯合ニュースによると、特別措置に反対する国民からの請願には、25日現在、6万4000人が賛同したという。韓国紙のハンギョレによると、ソウル大学医学部のハ・ウンジン教授は、同紙のインタビューに「いくら(政府の誤った政策の)被害者だといっても、彼ら(医学部生ら)は同時に加害者でもある。加害者なら『申し訳ない』と言う責任がある」とした上で、「良い医師を期待しているのに、そのような人が育たない環境を韓国社会はつくってきたのではないか。振り返ってみるべき」と指摘した。
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