9日に韓国国会本会議で可決したのは「犬の食用目的の飼育・食肉処理及び流通などの終息に関する特別法」。食用を目的に犬を飼育・繁殖したり食肉処理する行為、犬や犬を原料として料理・加工した食品を流通・販売する行為を禁止する内容を骨子とする。食用を目的に犬を殺した場合、3年以下の懲役または3000万ウォン(約328万円)以下の罰金、食用目的に飼育や繁殖を行った場合、2年以下の懲役または2000万ウォン以下の罰金に処せられる。
犬食文化が残る韓国では、滋養食として犬肉を煮込んだ「ポシンタン(補身湯)」が有名だ。韓国では、日本の「土用の丑の日」にあたる「ポンナル(伏日)」が7~8月にかけて計3日あり、補身湯や「サムゲタン(参鶏湯、鶏肉を使った滋養食)」を食べる習慣がある。
しかし、最近は若者を中心に犬食を敬遠する人も多く、この文化は薄れつつあった。「犬食用問題の議論のための委員会」が2022年、全国の18歳以上の男女1514人を対象に行った意識調査では、「犬食文化を継承すべき」との回答は28.4%にとどまった。一方、「犬の食肉処理の合法化に反対」との回答は52.7%に上った。
2021年9月、愛犬家として知られ、在任中、大統領府の公邸でも犬を飼っていた当時のムン・ジェイン(文在寅)大統領が「犬の食用禁止を慎重に検討する時期」との考えを示した。このことがきっかけで、犬肉を食用とすることをめぐる議論が活発化した。
政権が変わり、文氏と同じく愛犬家として知られるユン・ソギョル(尹錫悦)大統領は、大統領選候補の時から犬の食用自体には反対の立場を示していた。昨年11月には、尹大統領夫人のキム・ゴンヒ(金建希)氏も訪問先の英国でこの問題に言及し、カミラ王妃に対し「韓国では犬の食用禁止立法の成立のために努力している」と述べた。また、先月には、出席したオランダ・アムステルダムの動物保護団体との懇談会で「犬の食用禁止は大統領の約束」と話していた。
一方、韓国は今、愛犬ブームとなっている。一昨年時点で韓国で買われている犬は544万匹あまりで、前年より26万匹増加した。犬を家族のように大切に扱う風潮が広がり、愛犬ホテル、愛犬カフェ、愛犬美容院のほか、愛犬と一緒に旅を楽しむツアーなども人気だ。ペットとエコノミーを掛け合わせた造語「ペッコノミー」という言葉も定着しつつあり、2015年に1兆8994億ウォン(約2096億5700万円)だったペット関連産業の市場規模は、2027年には6兆ウォンを超えるまでに成長するとみられている。
愛犬ブームも、今回の犬肉禁止法可決を後押ししたといえる。与党「国民の力」と政府は昨年11月の与党・政府協議を通じて、特別法の制定を推進。最大野党「共に民主党」も同月、議員総会でこの法案の処理を党論として採択した。9日の国会本会議で法案の採決が行われ可決した。出席議員210人中、208人が賛成、2人が棄権、反対者はいなかった。
一方、犬食文化が長く韓国で根付いてきただけに、今回、犬肉禁止法が可決したことに伴い、廃業・転業を余儀なくされる関連業者も多数存在する。このため、飼育・食肉処理・流通などの禁止と違反時の罰則は猶予期間を設け、公布から3年後に施行する。また、影響を受ける業者が安定した経済活動を維持できるよう、国や地方自治体が支援を行っていく。
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