「ノーキッズゾーン」は乳幼児の立ち入りを禁止している飲食店や施設のことで、韓国では2010年代初め頃から設けられたとされる。レストランで使用済みのおむつを捨てたり、店内で子供が騒ぐのを放置したりする親の行動がSNSを通じて広がり、世間の反発を招いたことがきっかけという。その後、「ノーキッズゾーン」を掲げる店や施設は増加し、現在、韓国内に少なくとも500か所以上は存在するとされている。増加したのは、ホテルや飲食店などで子供が怪我をする事故が相次ぎ、店や施設が責任を負うリスクを避けようとしたことも一因と言われている。2011年には南部の釜山市の飲食店で、熱湯を運んでいた店員とぶつかった子供がやけどを負う事故があり、裁判所はオーナーに対し4100万ウォン(現レートで約463万円)の賠償金の支払いを命じた。
ル・モンドは、店を「ノーキッズゾーン」に変更したソウル市内の高級日本食店のオーナーの声を紹介。この店は以前は乳幼児用の椅子を置いていたというが、子どもが店内で騒いだりするといったことが多くなり、店を「ノーキッズゾーン」とした。オーナーは「高い料金を払ってそれに見合ったサービスを期待する他のお客様の迷惑となる恐れがある」と変更の理由を語った。
同紙は「ノーキッズゾーン現象は、さまざまなカテゴリーの集団にレッテルを張る幅広い動きの一つだ。こうした現象は互いに対する理解や世代間の交流増進にとって役立たない」と指摘した。
韓国の「キッズゾーン現象」は、これまで他の海外メディアも批判してきた。米紙のワシントンポストは昨年5月、関連記事を掲載し、公共の場所で子供の出入りを制限すれば、育児に対する困難をさらに強調することになり、出産をためらうことにつながりかねないと指摘。「出生率が世界で最も低い韓国においては、『ノーキッズゾーン』問題は更に深刻に受け止めるべきだ」とした。米CNNも昨年6月、「韓国では超少子化克服に向け、毎年巨額の予算を投じながら、幼い子供の出入りを禁止する『ノーキッズゾーン』営業が盛んに行われるなど、逆説的な現象が広がっている」と報じ、「ノーキッズゾーン」が広がる韓国の雰囲気が超少子化と高齢化問題を深刻にしていると指摘した。
韓国の出生率は1984年に1.74と初めて2を下回った。2000年代に入ると1.1~1.3を推移し、2018年には0.98と1を割り込んだ。経済協力開発機構(OECD)の加盟国の中で出生率が1を下回っているのは韓国だけだ。2018年以降も歯止めがかからず、2020年には0.84、2021年は0.81、2022年は0.78、そして昨年はさらに最低値を更新して0.72(28日発表、暫定値)となった。
韓国では3月から新学年度がスタートするが、聯合ニュースは26日、「2024年度の小学校の入学者数は40万人を割り込む見通しだ」と伝えた。40万人を下回るのは初めて。聯合が教育部(部は省に相当)への取材を基に伝えたところによると、今年の小学校の入学予定者は36万人9441人で、昨年度の小学1年生の児童数40万1752人(4月1日時点)を下回る。入学予定の児童が1人もいない小学校も計157校(今月20日時点)あるという。今年小学校に入学するのは2017年生まれの子どもだが、同年の出生数は35万7771人で、前年より4万8000人以上少なかった。小学校入学者の初の40万人割れは、韓国における少子化の深刻な現実を如実に表しているといえる。
韓国で少子化が大きな社会問題として浮上したのは2000年代はじめからだ。2003年に発足したノ・ムヒョン(盧武鉉)政権から少子化対策に本腰を上げて取り組むようになった。ユン・ソギョル(尹錫悦)現政権も、少子化対策として低家賃の公営住宅の建設や移民の受け入れなどを掲げ取り組んでいるが、少子化は一向に歯止めがかからない。各種の政策と併行して「ノーキッズゾーン」の在り方についても議論する必要があるだろう。
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