※写真はイメージです。本文と直接の関係はありません。
※写真はイメージです。本文と直接の関係はありません。
北朝鮮が、新年に合わせ今月1日に発行した切手をめぐり、今年は表記に大きな変化が確認された。切手にはこれまでキム・ジョンウン(金正恩)総書記の祖父、キム・イルソン(金日成)主席が生まれた1912年を元年とする「チュチェ(主体)年号」の表記があったが、今年発行の切手に主体年号はなく、「2025」と西暦のみ記されている。北朝鮮では、切手が国家宣伝の重要な手段となっている。北朝鮮の現在の最高指導者である金総書記は、長く日成氏や父のキム・ジョンイル(金正日)氏の威光を権力掌握に活用してきたが、最近は脱却を図り、自身の偶像化を進めている。

切手は北朝鮮の朝鮮郵票社が発行。昨年5月に首都・ピョンヤン(平壌)に完成した新市街地「前衛通り」がデザインされている。この通りがある平壌の西浦地区に住宅4100戸を建設する事業は、朝鮮労働党が一昨年提示した3大建設事業の一つ。昨年5月、「前衛通り」の完工式が行われ、金総書記は娘のジュエ氏と出席した。住宅4100戸の建設現場では、軍ではなく、若者を動員して工事が進められたことが他の工事とは異なる点で、北朝鮮政府は若者たちの気概の高さを強調。金総書記も完工式で建設に携わった若者たちをねぎらった。

今回、切手に「前衛通り」のデザインを採用することで、国家の建設事業の成果を強調した形だ。一方、前述のように、今回発行された切手には「主体年号」の表記がなかった。切手事業は朝鮮労働党宣伝扇動部が主導しており、新年に合わせて発行される切手には、前年の経済や軍事分野での成果を誇示し、新たな政策路線を提示する役割も果たしている。「主体年号」は北朝鮮の初代最高指導者、金日成主席への崇拝を象徴するもので、この表記がなくなったことは、金総書記が祖父の陰から脱却し、自身の偶像化を進めようとしていることを意味しているといえる。

北朝鮮は最近、こうした動きを活発化させており、昨年は金主席の誕生日(4月15日)の公式名称を、金主席を偶像化する意味が込められた「太陽節」から「4.15節」に変更した。また、金総書記の父、金正日氏の誕生日(2月16日)を指す「光明星節」との用語も、昨年から北朝鮮メディアはほとんど使用しなくなった。

また、5月には、党幹部を養成する学校に、金総書記の肖像画が金正日氏、金日成氏と並んで掲げられているのが確認された。これに、当時の韓国紙・朝鮮日報は、「『金正恩偶像化』がさらに本格化しているとみられる」と報じた。さらに、7月には、金総書記の肖像が描かれたバッジが公式に初めて確認された。朝鮮労働党の機関紙、労働新聞が当時掲載した写真からは、党中央委員会総会に出席した幹部らが、胸元に金総書記の肖像をあしらった「肖像記章」(バッジ)を着用していることが確認できた。

北朝鮮の幹部や住民たちは、金氏一家の偶像化の象徴である肖像記章を特別な事情がない限り常に身につけている。それまで住民や党幹部たちは、日成氏と正日氏の2人の顔を並べたバッジを着けていた。金総書記の肖像をあしらったバッジも2012年から存在はしていたとされているが、公式行事で党幹部が「金正恩バッジ」の着用しているのが確認されたのはこの時が初めてだった。この変化に、当時、韓国メディアなどは金総書記の地位を高める意図があるとの見方を伝えた。

正日氏の死去(2011年12月17日)に伴い、正恩氏が政権トップの座に就いてから10年を超え、金総書記独自の思想体系を確立する動きも徐々に出てきている。2020年の秋ごろから国営メディアは金総書記に「首領」という表現を用いるようになった。「首領」はもともと日成氏にのみ使われた呼称だ。

金総書記は平壌のクムスサン太陽宮殿の新年参拝を2年連続で行わなかったとみられている。同宮殿には日成氏、正日氏の遺体が安置されている。一方、朝鮮中央通信は2日、党や政府の幹部らが前日に同宮殿を訪れたと報じた。金総書記はここ数年、同宮殿への参拝回数が大幅に減っており、韓国の通信社、聯合ニュースは「先代を偶像化する動きが弱まっているのではないかとの見方が出ている」と伝えた。

北朝鮮は昨年、住民に体制への忠誠を求める「忠誠宣誓の日」を変更し、金総書記の誕生日とされる1月8日に行った。今年も昨年に続き、同日に行われることになるのか注目される。
Copyright(C) wowneta.jp