<W解説>韓国への亡命の意思示した、ウクライナで捕虜の北朝鮮兵=今後の対応でカギとなる「ジュネーブ部条約」
<W解説>韓国への亡命の意思示した、ウクライナで捕虜の北朝鮮兵=今後の対応でカギとなる「ジュネーブ部条約」
ウクライナとの戦闘のためにロシアに派兵され捕虜となった北朝鮮兵士2人が、このほど韓国紙・朝鮮日報のインタビューに応じた。2人は、北朝鮮の治安機関の監視要員から「ウクライナに派遣された韓国軍が無人機で(北朝鮮兵を)」攻撃している」と虚偽の説明を受けていたと証言した。また、このうち1人は、韓国への亡命を希望しているという。韓国政府は「亡命を希望する場合、全員受け入れるというのが基本原則だ」としているが、「ジュネーブ条約」は「交戦中に捕まった捕虜は戦争が終われば直ちに釈放され、本国に送還しなければならない」と規定。捕虜の北朝鮮兵がロシア軍所属と認定された場合、同条約に基づけば、兵士はロシアに送還されることになり、兵士の希望が叶うかは不透明だ。

北朝鮮がロシアを支援するために大規模な派兵を行っていたと初めて報じられたのは、昨年10月のことだった。同月には、北朝鮮東部のチョンジン(清津)やハムン、ウォンサン(元山)の港から、ロシアの輸送艦が北朝鮮兵士を極東ウラジオストクに移送。その後、兵士たちはロシア東部の軍事施設で訓練を受けたと当時、伝えられた。11月に入ると、一部が戦闘に参加したことも確認された。北朝鮮はこれまでに1万人以上を派兵。韓国政府はロシア西部クルスク州に北朝鮮兵約1万1000人が配置され、これまでに3000人以上が死傷したとみている。

これ以前から、北朝鮮はロシアとの関係を強めてきており、兵士の派兵に先立ち、武器や弾薬を供与していた。派兵もロシア側が希望したのではなく、北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)総書記が提案して進められたものであるとも伝えられている。北朝鮮側は、兵士を提供する見返りに、最新の軍事技術をロシア側から得たいとの思惑があったとみられている。

北朝鮮のロシア派兵が報じられた当時、「最近のロ朝軍事協力の進展の動きは、ウクライナ情勢のさらなる悪化を招くのみならず、我が国を取り巻く地域の安全保障に与える影響の観点から深刻に憂慮すべきものだ」(青木一彦官房副長官)、「もし本当ならば、両国の結びつきが著しく進んでいることを示すことになる。大きな犠牲を出し続けているロシアが、さらにやけになっていることも示している」(米国務省のミラー報道官)などと国際社会から懸念や批判が相次いだ。

昨年6月、ロシアのプーチン大統領は24年ぶりに北朝鮮を訪れ、北朝鮮の金総書記と首脳会談を行った。当時の米CNNは「欧米への反感を共有する両国の軍事協力強化に国際的な懸念が出る中で、ロ朝の連携が深まっていくことを予想させる光景だった」と伝えた。会談で両首脳は、ロシアと北朝鮮のどちらか一方が戦争状態になった際、軍事的な援助を提供することなどを明記した「包括的戦略パートナーシップ条約」に署名した。条約は23の条項からなり、第4条では集団的自衛権を認める国連憲章と、自国の法律に従い、「どちらか一方が武力侵攻を受け、戦争状態になった場合、遅滞なく保有するすべての手段で軍事的及びその他の援助を提供する」と明記されている。ロシアが北朝鮮とこの条約を締結した背景には、ウクライナへの軍事侵攻が長期化する中、条約によって北朝鮮との軍事協力を拡大させたい思惑があったとみられている。

ウクライナの捕虜となった北朝鮮の20代の狙撃手と小銃手の2人が、このほど朝鮮日報のインタビューに応じた。狙撃手の男性は「訓練を受けに留学する」として昨年10月上旬にロシアに向け出発したと話し、「戦闘に参加するとは思わなかった」と明かした。男性はロシア極東のウラジオストクでの訓練後、今年1月初旬から戦闘に参加したという。男性は韓国への亡命を希望しており、「大学に行くのが夢だった。夢をかなえてみたい」と語った。

前述のように国際法上、交戦中に捕まった戦争捕虜はジュネーブ条約に基づいた措置が取られる。北朝鮮から派兵された兵士がロシア軍所属と認定されれば、同条約に基づき、ロシアに送還される。ロシアに送還後、北朝鮮に送られる可能性もある。一方、韓国の憲法では北朝鮮軍の兵士は韓国国民と規定。韓国外交部(外務省に相当)は「韓国に行くと要請があった際には、全員受け入れるという基本原則に従って必要な保護と支援を提供する」とし、原則受け入れる方針を表明。外交部は「捕虜の送還に関しては、国際法や慣行上、個人の自由な意思が尊重されるべきであり、本人の意思に反して迫害を受ける恐れのあるところに送還されてはならない」としている。

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