警察庁、外務省、財務省、経済産業省が26日に合同で公表した文書では、北朝鮮のIT技術者は中国やロシア、東南アジアなどに居住しながら、求人サイトを通じ、ソフトウェアやゲーム開発などの分野で日本企業から不正に業務を受注している疑いがあると指摘。日本国内の関係事業者に注意喚起した。北朝鮮に資金が流れることを認識した上で仕事を受注すれば、企業側が外為法などに違反する恐れもあるという。
警察庁などはホームページで手口などの詳細を周知しているほか、26日、求人サイトや企業の担当者を集めた説明会を開き、対策を取るよう求めた。
北朝鮮のIT労働者の特徴としては、▽身分証を偽造して日本にいる親族や知人になりすます▽中国やロシアに居住しながらリモートで作業を行う▽仕事を請け負う際の名義と報酬の受取口座の名義が一致していない▽一般的な相場より安い報酬で請け負う▽テレビ会議など、対面形式の打ち合わせを嫌がるなどがあるという。
全国で北朝鮮のIT労働者に絡んだ事件の摘発は既にあり、毎日新聞の報道によると、大阪府警や神奈川県警などが2020年2月~24年3月に3事件を摘発、北朝鮮のIT技術者と関係があるとみられる日本在住の男女5人を逮捕・書類送検した。5人は韓国籍などで、中国に住む北朝鮮籍のIT労働者に不正送金したなどの疑いがもたれたが、2人は容疑不十分で不起訴、1人は起訴猶予となったという。
日本に先立ち、米韓両国は一昨年5月と12月、昨年10月に、同様の注意喚起を行った。また、韓国は昨年、北朝鮮IT技術者による外貨稼ぎに関与したとして、北朝鮮国防省傘下のIT企業と、朝鮮労働党軍需工業部傘下のIT企業、IT・サイバー分野の教育機関の計3団体と、個人7人を独自制裁の対象に指定した。対象の教育機関はキム・ジョンウン(金正恩)総書記のリ・ソルジュ(李雪主)夫人も過去に通っていた、芸術教育分野でも有名な機関。制裁対象の指定当時、韓国の外交部(外務省に相当)は「外貨稼ぎを直接遂行する組織や人材だけでなく、養成機関や協力者まで包括的に制裁することで、活動全般を制約する効果が期待できる」と意義を強調していた。
国連安全保障理事会北朝鮮制裁委員会の専門家パネルは2019年以降、北朝鮮のIT技術者について報告を出し、収入が北朝鮮による核・ミサイル開発の資金源になっていると訴えてきた。専門家パネルが今月出した報告書の内容として朝日新聞が伝えたところによると、北朝鮮のIT技術者が得た収入のうち手元に残るのはごく一部で、残りは派遣会社が受け取り、多くは北朝鮮あての物品購入に充てられるという。北朝鮮のIT労働者は海外に約3000人、北朝鮮内にも1000人いると推測されている。年間で得る利益は最大6億ドル(約908億円)近くとされる。
また、北朝鮮は悪質なサイバー活動にも関与しているとみられている。今年1月、韓国の国家情報院は昨年1年間の韓国の公共分野を標的としたサイバー攻撃の80%が北朝鮮によるものだったとする分析結果を公表した。国家情報院はそのサイバー攻撃はキム・ジョンウン(金正恩)総書記の指揮のもとで行われていると指摘した。また、前出の専門家パネルの報告書によると、北朝鮮は外貨収入の約50%をサイバー攻撃によって得ているとされる。さらに報告書は、大量破壊兵器の開発費用の約40%がサイバー攻撃から得た資金だと指摘した。
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