<W解説>2004年以来の日朝首脳会談は実現するか=高市首相、「北朝鮮側に伝えている」
<W解説>2004年以来の日朝首脳会談は実現するか=高市首相、「北朝鮮側に伝えている」
高市早苗首相は今月3日、東京都内で開かれた北朝鮮による拉致被害者の帰国を求める国民大集会に出席し、北朝鮮側に首脳会談を要請したことを明らかにした。高市氏は「(北朝鮮の)キム・ジョンウン(金正恩)委員長(朝鮮労働党総書記)と首脳同士で正面から向き合い、私自らが先頭に立って、様々な状況に応じて、果敢に行動するとことで、具体的な成果に結び付けたいと考えている。あらゆる選択肢を排除せず、私の代で何としても突破口を開き、拉致問題を解決したい」と強い意欲を示した。

日朝首脳会談は、2002年9月17日、当時の小泉純一郎首相が訪朝し、初めて行われた。キム・ジョンイル(金正日)総書記(当時)は拉致を認めて謝罪。拉致被害者5人は生存、横田めぐみさんら8人は死亡と伝えた。会談で両首脳は「日朝平壌宣言」を交わした。同宣言で両首脳は、日朝間の不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、実りある政治、経済、文化的関係を樹立することが双方の基本利益に合致し、地域の平和と安定にも寄与することになるとの共通認識を確認した。宣言には国交正常化交渉の再開や日本による植民地支配の謝罪、北朝鮮による核問題解決の約束遵守などが盛り込まれた。

翌月、拉致被害者5人が帰国。そして2004年、小泉氏が再訪朝し、拉致被害者の家族5人が帰国した。しかし、これ以降、拉致問題に関して手詰まり状態が長く続いた。その後、2014年に日朝両政府は北朝鮮による拉致被害者らの再調査と日本による独自制裁の一部解除を盛り込んだ「ストックホルム合意」を発表した。北朝鮮は特別調査委員会を設置したが、2016年に核実験とミサイル発射を強行。日本が独自制裁を強化したことを受け、北朝鮮は委員会の解体を宣言し、進展への期待もむなしくストックホルム合意もとん挫した。2018年6月と19年2月の米朝首脳会談では、トランプ米大統領が拉致問題を提起するも、北朝鮮が具体的な行動に出ることはなかった。拉致被害者は前述した2002年に5人が帰国して以降、一人の帰国も実現していない。

こうした中、先月21日に就任した高市氏は、この2日後に北朝鮮の拉致被害者の家族会と面会。「金正恩総書記との首脳会談に臨む覚悟もできている」と述べた。面会後、拉致被害者家族連絡会は記者会見を開き、拉致被害者の横田めぐみさんの弟で、家族会代表の拓也さんは「私たちの心の内にある苦しい気持ちはしっかり受け止めてもらった。この問題を一日も早く解決してほしい」と求めた。

高市氏は先月24日の所信表明演説でも、「拉致問題は高市内閣の最重要課題」と述べ、この問題の解決に強い意欲を示した。また、産経新聞によると、高市内閣の木原稔官房長官は先月31日、報道各社のインタビューに応じ、拉致問題について、「日本が主体的に行動することが重要だ。全ての拉致被害者の1日も早い帰国を実現すべく、全力で取り組む」と語った。

しかし、北朝鮮は最近、ロシア、中国との軍事連携を一層強めており、日本と話し合う機運が低下。拉致問題に関しては「解決済み」との主張を続けている。

北朝鮮の朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」は先月30日、北朝鮮の公式メディアとして、高市氏の首相就任について初めて報じた。同紙は高市氏について「政界入りした当初から右翼的な発言をし、強硬保守派と呼ばれてきた」と指摘。「右翼保守層を代弁する人物という評価を受けている」と紹介した。また、「明白なのは、日本政界の右傾化の方向は絶対に変わらないし、さらに危険千万な道へ進むということだ」と主張した。

高市氏は3日、都内で開かれた北朝鮮による拉致被害者の帰国を求める国民大集会に出席し、「既に北朝鮮側に首脳会談したい旨を呼び掛けた」と明かした。高市氏は「この拉致問題が解決すれば、そこから我が国のみならず、北朝鮮もまた、そして国際社会も大きな利益を得ることになる」と強調した。一方、北朝鮮側の反応は明らかにしなかった。

日朝首脳会談の実現に向けた交渉をめぐっては、昨年3月、金総書記の妹、キム・ヨジョン(金与正)朝鮮労働党副部長が、日本側から日朝首脳会談の提案があったことを明らかにした。与正氏は当時の談話で、「拉致問題に没頭するなら、首相の(訪朝)構想は人気取りに過ぎない」と牽制(けんせい)した。

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