佐渡金山には戦時中、労働力不足を補うため、朝鮮半島出身労働者が動員された。このことから韓国側は当初、「佐渡島の金山」は世界遺産にふさわしくないとして、日本が登録を目指すことに反対した。目指すのであれば、朝鮮半島出身労働者が強制労働に従事した歴史を反映すべきと主張した。ただ、強制労働か否かの見解は日韓で食い違っており、日本政府は2021年4月、先の大戦中に行われた朝鮮半島から日本本土への労働者動員について「強制労働には該当しない」との答弁書を閣議決定している。
日本は韓国側と水面下で協議を重ね、佐渡市内の展示施設で朝鮮半島出身者を含む鉱山の労働者に関する新たな展示を始めた。
こうしたことを受けて、韓国側は登録を容認し、7月に開かれた世界遺産委員会の会議で、審議の結果、韓国を含む委員国の全会一致で「佐渡島の金山」の世界文化遺産登録が決まった。この際、日本政府の代表は「『佐渡島の金山』における全ての労働者のための追悼行事も毎年現地で行われる予定だ」と表明した。
追悼式は早ければ9月にも開かれるとみられていたが、自民党総裁選やその後に衆議院選があったことも影響してか日程が定まらず、今月24日、佐渡市の「あいかわ開発総合センター」でようやく開催された。追悼式は新潟県や同市、そして同市の市民団体でつくる実行委員会が主催した。
式には、韓国政府関係者や韓国人遺族も出席予定だったが、韓国メディアは式に先立ち、日本政府代表として出席の生稲外務政務官が、太平洋戦争のA級戦犯が合祀(ごうし)されている靖国神社を参拝したと報道。韓国政府は式の前日の23日、参加を見送ると表明した。報道が影響したとみられているが、韓国外交部(外務省に相当)は見送った理由の詳細は明らかにせず、「追悼式前に両国が受け入れ可能な合意に至ることは難しいと判断した」とだけ説明した
一方、式は予定通り行われ、約70人が出席。韓国政府関係者や韓国人遺族に用意した席は空席のまま進行した。追悼式で、生稲外務政務官は「労働者の中には、戦時中の政策に基づいて朝鮮半島から来られた多くの人が含まれ、亡くなられた方もいた」と朝鮮半島出身労働者にも触れ、「世界文化遺産に登録された今こそ、先人たちが紡いできた歴史を未来へ継承していくという誓いを新たにしなければならない。先人たちの努力に心から敬意を表するとともに、亡くなられた全ての方々に改めて深い哀悼の意を示したい」と述べた。
出席予定だった韓国政府と韓国人遺族が、直前になって出席を取りやめたことに、式の関係者らからは落胆や困惑の声が上がった。地元県紙の新潟日報によると、実行委員長を務めた「佐渡を世界遺産にする会」の中野洸会長は「(韓国側)に出席いただきたかった。残念という思いだけだ」と話した。また、新潟放送によると、佐渡市の渡辺竜五市長も「地元としては準備してきた中で、こういう結果になったというのは本当に大変残念」と述べた。
一方、聯合ニュースは「追悼行事の開催は『佐渡島の金山』の世界文化遺産登録に向けて韓日政府が見出したもので、順調な両国関係により生まれた『成果物』とも言えるだけに、今後波紋が広がる可能性がある」と伝えた。
韓国政府は25日、独自の追悼行事を佐渡市の「第四相愛寮」で執り行った。韓国の労働者遺族9人とパク・チョルヒ駐日大使らが出席した。パク大使は「佐渡鉱山(金山)の歴史の裏には韓国人労働者の涙と犠牲があったことを私たちは永遠に忘れない」とし、「つらい歴史が記憶され続けるよう韓日両国が心を込めて努力していかなければならない」と訴えた。
一方、この日夜になって、共同通信は生稲氏が2022年8月に靖国神社を参拝したと国内外に配信した記事は誤りだったと発表した。「本人に確認取材しないまま記事化した」などとしている。NHKによると、政府関係者は共同が訂正したことについて「日韓関係に影響を与えかねず遺憾だ」と述べた。一方、韓国の聯合ニュースによると、韓国外交部の当局者は「追悼式への不参加の決定は諸般の事情を考慮したもの」とし、不参加の理由は生稲氏が靖国神社を参拝したとする情報だけではないと説明している。
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