尹氏は昨年12月、国内に向けて「非常戒厳」を宣言した。非常戒厳は韓国憲法が定める戒厳令の一種。戦時や事変などの非常事態で、軍事上、必要となる場合や公共の秩序を維持するために大統領が発令するものだ。
非常戒厳は早期に解かれたものの、韓国社会に混乱をきたし、国内政治は不安定となった。「共に民主党」など野党は、尹氏が「憲法秩序の中断を図り、永続的な権力の奪取を企てる内乱未遂を犯した」などとして憲法違反を指摘し、尹氏の弾劾訴追案を国会に提出した。昨年12月、採決が行われ、賛成204票、反対85票で同案は可決した。これを受け、尹氏は職務停止となった。
同案の可決を受け、憲法裁が6か月以内に尹氏を罷免するか、復職させるかを決めることになり、憲法裁では1月から弁論が行われてきた。2月25日まで計11回開かれた。
そして、憲法裁は今月4日、判事8人全員一致により、尹氏の罷免を認める決定を言い渡した。決定を受け、尹氏は弁護団を通じてコメントを発表。「力不足の私を支え、応援して下さった皆様に心より感謝申し上げます。期待に応えられず申し訳ありません」とした上で、「これまで大韓民国のために働くことができて本当に光栄でした。これからも、愛する祖国と国民の皆さまのために祈り続けます」とした。
尹氏が失職したことに伴い、韓国では60日以内に大統領選が行われることになり、投票日は6月3日に決まった。大統領選についての各世論調査で現在、支持率トップとなっている、最大野党「共に民主党」のイ・ジェミョン(李在明)前代表や、与党「国民の力」からはキム・ムンス前雇用労働相ら、既に複数の政治家が出馬を宣言した。
一方、尹氏は11日午後、2年半ほど過ごした公邸から退去した。公邸入り口前で車から降り、支持者らと握手やハグをした。支持者たちは「YOON AGAIN(ユン・アゲイン)」とシュプレヒコールを上げた。韓国メディアによると、「YOON AGAIN」には、「尹前大統領は再び出馬するなどの方法で大統領職に復帰すべきだ」、「尹前大統領の意思を受け継ぐべきだ」との支持者の願いが込められているという。
尹氏は11日、「公邸では各国の首脳に会った。国家と安全保障のために努力した瞬間が走馬灯のようによみがえる。国民の一人に戻り、国と国民のための新しい道を見つける」などとする談話を発表した。
尹氏はキム・ゴンヒ(金建希)夫人とともにソウル市内のマンションに移った。尹氏は罷免後も、最長10年間、大統領警護処の警護を受けることができ、このほど、約40人規模の自宅警護チームが編成された。通信社の聯合ニュースは「尹氏の自宅は複合型マンションで、近隣住民に迷惑が掛かる懸念があることに加え、複数のペットを飼っていることからマンションに移った後に首都圏で別の住居を探す案を検討しているようだ」と伝えた。
尹氏をめぐっては、内乱を首謀した罪で起訴されており、14日には刑事裁判の初公判が開かれることになっている。
一方、一部の保守層に依然として影響力を維持しているとみられ、4日に罷免された後も、公邸で親しい与党議員らと相次いで面会していた。韓国紙のハンギョレは「自粛し、沈黙する代わりに、自らプレーヤーとして政局に関わろうとする尹前大統領に対し、(与党)『国見の力』の中でも『ただでさえ厳しい大統領選挙をさらに困難にしている』との批判の声が上がっている」と伝えた。
前述の談話で、尹氏は「国民と共に夢見た自由と繁栄の韓国のため、微力ながら努力を惜しまない」とも述べている。今後、尹氏が保守層への影響力を保持するのか注目される。
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