<W解説>北朝鮮、金正恩総書記の娘は「ジュエ」なのか、「ジュイェ」なのか
<W解説>北朝鮮、金正恩総書記の娘は「ジュエ」なのか、「ジュイェ」なのか
北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)総書記の娘の名が、「ジュエ」とされている中、毎日新聞は今月23日、漢字表記は「『主愛』か」と伝えた。同紙によると、北朝鮮から2019年に韓国に亡命したリュ・ヒョヌ元駐クウェート代理大使がこのほど「金正恩の隠された秘密金庫」(東亜日報社)と題する新著を発刊。リュ氏は著書の中で、ジュエ氏の名をハングルで書き、その漢字表記を「主愛」と補足したという。一方、北朝鮮は、金氏の娘の存在は認めているものの、メディアを通じて「愛するお子様」、「尊いお子様」、「尊敬するお子様」などとしており、これまで当局が娘の名前を「ジュエ」と呼んだり公表したりしたことはない。2023年に韓国に亡命した元駐キューバ大使館参事官のリ・イルギュ氏は、金氏の娘の名について「ジュイェ」と指摘している。

金氏の娘が公の場に初めて姿を見せたのは、2022年11月のことだった。当時、北朝鮮の朝鮮労働党の機関紙、労働新聞などは、ICBM(大陸間弾道ミサイル)「火星17」の発射に成功したと報じる記事の中で、「火星17」の前を白いダウンコート姿の少女が金氏と手をつないで歩く写真などを公開。「『愛するお子様』が同行した」と伝えた。

その後も娘は金氏の軍事分野の視察に同行するなど、その姿が北朝鮮メディアを通じて度々公開されてきた。北朝鮮指導者の子どもがこれほど早くから公の場に登場することは過去になく、国家機関の一員となるまでは人目に触れないようにしておくという従来の慣例からすると異例な状況となっている。

金氏はリ・ソルジュ(李雪主)夫人との間に3人の子供がいるとされ、当初、ジュエ氏とされる少女は金氏の第2子との見方が有力だった。しかし、韓国政府系のシンクタンク、統一研究院の院長は2023年5月、この少女が第1子の可能性が高いとし、「後継者の候補に含まれているとみている」との見方を示した。ジュエ氏とされる少女が公の場に頻繁に登場しているのも、「(金氏の祖父、金日成主席の直系を示す)白頭(ペクトゥ)血統」の正当性を示す狙いがあるとみられている。

そもそも、金氏の娘の名が「ジュエ」と呼ばれるようになったきっかけは、2013年に金氏に招かれて訪朝した米国の元プロバスケットボール選手のデニス・ロッドマン氏が言及したことによる。金氏は訪朝時、金氏の娘とされる乳児を抱いた際、「ジュエ」と紹介されたという。一方、北朝鮮は金氏の娘の存在は認めているものの、当局などが名前を「ジュエ」と公表したことはない。北朝鮮メディアも娘についてこれまで「愛するお子様」、「尊いお子様」、「尊敬するお子様」などと表現している。また、たびたび金氏に同行している少女の名が「ジュエ」なのかも定かではない。

韓国の国家情報院は昨年1月、金氏に同行している娘について、「有力な後継者とみられる」との見解を示した。さらに同院は同年7月、この娘が「後継者教育を受けている」とする分析結果を国会に報告した。ただ、他のきょうだいが後継者になる可能性も排除しなかった。同年11月には、もう一段階踏み込み、この娘について「地位の格が上がっている」との見方を示した。娘が党の行事で金氏の妹のキム・ヨジョン(金与正)氏の案内を受けたり、チェ・ソンヒ(崔善姫)外相の補佐を受けたりしていることなどを根拠に挙げた。

今年9月に中国・北京で開かれた、抗日戦争勝利80年の記念式典に金氏が出席した際も娘が同行し、注目された。父の外遊に娘が同行するのが確認されたのは初めてだったからだ。後継者として国内外にアピールする狙いがあったとの見方が広がった。北朝鮮の国営、朝鮮中央通信が当時配信した、金氏が北京に到着した際の写真からは、金氏の後ろに立つ娘の姿が確認できた。一方、抗日戦争80年記念の一連の行事に娘の姿はなかった。韓国紙の東亜日報は当時、「直接的な外交行事への参加というよりも、広い意味での後継者教育との見方もある」と伝えた。

韓国の情報機関、国家情報院は金氏が外遊に娘を同行させたことについて、「有力な後継者としての地位を固めたとの見方ができる」と分析した。

こうした中、北朝鮮から2019年に韓国に亡命した、前出のリュ元クウェート大使はこのほど発刊した著書で、金氏の娘をジュエとハングルで書き、「主愛」と補足した。毎日新聞によると、リュ氏の妻の父、チョン・イルチュン(金日春)氏は、金氏一族の資金を管理する「朝鮮労働党39号室」の室長を務めた人物。チョン氏はかつて、金氏が娘を伴って視察した際に同行し、この際に撮影した記念写真を後日、リュ氏に見せたという。リュ氏は著書で、写真の裏面には「ジュエお姫さまと共に」とチョン氏による記載があったことを明らかにした。リュ氏が名前の意味を尋ねたところ、チョン氏は「元帥さま(金氏)が『万人の愛を独り占めするきれいな娘になれ』という意味を込めて主愛と名付けたとおっしゃった」と答えたという。

金氏の娘の名はやはり「ジュエ(主愛)」なのか。一方、2023年に北朝鮮から韓国に亡命した前出のリ元キューバ大使は「ジュエ」ではなく「ジュイェ」と指摘している。情報が錯綜しているが、前述のように仮に金氏に「ジュエ」または「ジュイェ」という娘がいたとしても、金氏にたびたび同行していることが確認されている娘が「ジュエ」または「ジュイェ」かどうかは定かではない。

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