16日からの大雨で、ソウル近郊のキョンギド(京畿道)オサン(烏山)で道路の擁壁が崩れ、巻き込まれた車の運転手1人が死亡したほか、南部のキョンサンナムド(慶尚南道)サンチョン(山清)郡では土砂崩れが発生し、多数が巻き込まれた。韓国メディアによると、この大雨により19人が死亡、9人が行方不明になっている。
韓国に甚大な被害をもたらした今回の大雨だが、北朝鮮でもまとまった雨が降ったとみられ、韓国統一部は22日、北朝鮮が18日に韓国に流れ込む臨津江の上流にある黄江ダムの放流を行ったことを確認したと発表した。
統一部は先月、梅雨の時期の南北境界地域の洪水被害防止のため、北朝鮮に対し、黄江ダムを放流する際には事前に通知するよう要請していた。現在、南北関係は冷え込んでいるが、統一部のチャン・ユンジョン副報道官は、「自然災害に対する共同対応は、人道主義的事案だ」と強調した。北朝鮮は2023年4月に南北間の連絡チャンネルを一方的に遮断して以降、韓国側の通話の要請に応じていない。聯合ニュースはチャン副報道官の呼びかけに、当時「統一部はメディア向けの会見という方法で北朝鮮にメッセージを発信したといえる」と指摘した。今回、放流が行われたとされる前に、北朝鮮側から事前通知はなく、韓国側の要請を無視した形だ。
北朝鮮が事前通知なく黄江ダムを放流したことで、2009年9月には、韓国側で臨津江の下流にいた韓国人キャンプ客ら6人が死亡する事故が発生した。事故を受け、南北はダムの放流時には事前に通知することで一度は合意した。しかし、北朝鮮は2010年に2回、13年に1回事前通知して以降、合意に反して事前通知なしに放流を行っている。2016年5月には、北朝鮮に近いパジュ市の漁民100人余りが放流によって漁具が流される被害を被った。2020年8月にも北朝鮮が事前通知なくダムの水門を開き、韓国側の下流の水位が急上昇。地元住民は緊急避難を余儀なくされた。当時の統一部長官は遺憾の意を表し、「南北間の政治・軍事的状況がいくら厳しくても、人道的分野と南北境界地域の住民の安全に直結する部分は南北で疎通を直ちに再開する必要がある」と強調した。
懸念されるのはダム放流による水害だけでない。放流によって地雷が韓国側に流れ着く恐れがあるとして警戒が高まっている。朝鮮半島を韓国と北朝鮮に隔てる軍事境界線付近には、朝鮮戦争(1950~53年)当時や、その後から現在に至るまでの休戦中に多くの地雷が埋められ、付近には現在も大量の地雷が埋まっているとされる。また、北朝鮮は昨年、キム・ジョンウン(金正恩)総書記の指示の下、軍事境界線付近の非武装地帯(DMZ)に地雷の埋設を進めた。DMZの北側地域に埋設された地雷の数は、数万発に上ると推定されている。地雷は木箱入りの物のほか、木の葉に偽装し、見分けをつきにくくしたものもあり、韓国軍合同参謀本部や韓国メディアはこれを「木の葉地雷」と表現している。昨年、通信社の聯合ニュースは「木の葉地雷」について、使われている爆薬の量は約40グラムで、一般的な対人地雷(約20グラム)と木箱地雷(約70グラム)の中間程度の威力を持つと解説した。また、韓国紙の朝鮮日報は、大きさについてスマートフォン程度と伝えた。
韓国軍合同参謀本部は先月、「北の軍が地雷を埋設した地域のうち一部は臨津江、プッカンガン(北韓江)など南北共有河川とハンガン(漢江)河口につながっている。集中豪雨が発生した場合、北側の地雷が流出し、韓国側の地域に流入する恐れがある」と懸念を示した。また、これら地域で不審な物体を発見した場合、直ちに軍部隊や警察に通報するよう呼び掛けた。
統一部によると、北朝鮮は今月18日だけでなく、6月25日にもダム放流を行ったとみられるという。韓国政府の再三の要請にも関わらず、またしても事前通知なしに相次いで放流を行ったとみられる北朝鮮。聯合ニュースによると、韓国環境部は「黄江ダム放流により、臨津江の水位上昇が予想されるため、モニタリングを強化し、事故に備えている」と説明している。
一方、聯合ニュースは「統一部はユン・ソギョル(尹錫悦)前政権とは異なり遺憾の意を表明することはせず、事前通知のないダム放流に対し『無断放流』という表現も用いていない」と指摘した。
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